ウクライナ情勢が一段と緊迫の度を強めている。米国務省はきのう、ロシアがウクライナに軍事侵攻する可能性が高いとして、在ウクライナ大使館にいる職員の家族に対して国外退去命令を出した。さらに、緊急を要する業務に就いていない職員には退避を認め、クライナ国内にいる一般の米国人にもただちに退避を検討するよう勧告した。まるでいますぐロシアの侵攻が始まるかのような雰囲気だ。EUも同調する。24日に外相理事会を開き、ウクライナに対する継続的な攻撃的行動と脅威を非難し、ロシアに対して緊張を和らげるよう要求した。米国防省はロシア侵攻に即時に対応できるように「兵士約8500人を派兵待機とした」と発表している。こうしたニュースを見ていると、ウクライナ国境での緊迫の度を高めているのはロシアであるかのような心象が形成されていく。
当のロシアはどうか。ロイターによるとロシア大統領府のペスコフ報道官はこうした動きに対して、西側諸国の「ヒステリー」と非難。むしろNATO軍の増強が緊張を高めているとし「ロシアの行動の結果、このような事態に陥っているのではない。NATOと米国による行動でこうしたことが起きている」と西側陣営を批判した。緊張を高めているのはNATOと米国だというわけだ。因果関係は真逆だ。記事の行間を想像すればロシアの主張もそれなりに理解できる。NATOの東方拡大はロシアにとって安全保障上の脅威である。ウクライナのNATO加盟を拒否し、これ以上軍事力を東方に拡大しないと約束せよ。これはロシアにとって当然の権利だ。西側諸国はウクライナを軍事的に支援している。緊張を作り出しているのはロシアではない。NATOと米国だ。なるほど、ロシアの主張にも一理ある。
バイデン大統領にも弱みがある。11月の中間選挙を控えて支持率が低迷している。支持を獲得する近道は、どの大統領にとっても一緒。外交面で緊張感を作り出すことだ。そういう目で見るとウクライナとロシアの国境を挟んだ緊張感の高まりは、政治的な演出としては格好の舞台に見える。プーチン大統領とて事情は似たり寄ったりだ。国内では反プーチン勢力が増えており、足元は必ずしも万全ではない。双方にとって“緊張”とか“緊迫”の二文字は使い勝手がいい。NYダウはきのう、一時1000ドルを超える暴落となった。だが、終わってみれば約100ドルの値上がりである。専門家は「損を被った人たちは、誰のせいでこのような目にあったのか、犯人探しをしている」(ロイター)とディーラーの行動を分析する。緊張とか緊迫の二文字でディーラーも大統領も救われる。果たして国境付近で高まる緊迫の度に、本当にリアリティーはあるのだろうか・・・。
- 投稿タグ
- 国際政治