ウクライナをめぐる厳しい情勢は多少緩和したのか、引き続き緊迫しているのか、乱れ飛ぶ情報からははっきりとした確証は得られない。「16日にロシアは侵攻を開始する」との米国情報を元に首脳外交が活発化、鍵を握るプーチン大統領はラブロフ外相の提案を受け入れ「対話継続」を選択した。その証拠として貨物列車で退去する戦車の映像を公開するなど、緊張緩和に積極的な姿勢を世界中に向かって発信した。だが、ブリンケン米国務長官は16日、「米国はこれまでのところロシア軍の撤収を確認できていない」と主張したほか、バイデン大統領も「ロシア侵攻の可能性はまだある」とロシア側の言い分を一蹴した。NATOをはじめ西側の首脳もこうした見方に同調、ウクライナ情勢は軍事的な戦争の前に情報戦争の様相を強めている。
米ロを中心に繰り広げられる情報戦争は抑制の効かない喧嘩腰の言い合いになっている。一例を挙げれば米国はロシアを「嘘つき」とののしり、ロシアは米国を「ヒステリー」と挑発する。知性と教養を兼ね備えたエリート官僚によるはしたない言葉の応酬が続いている。言葉がエスカレートするにつれて問題の本質は見失われていく。ロシアと米国は何を争っているのか、争いの核心が見えなくなっていく気さえする。当事者でもあるウクライナのゼレンスキー大統領は、間違った情報で「国民がパニックに陥ることが一番の脅威だ」と行き過ぎた情報戦争に警鐘を鳴らす。米国が主張した16日の「ロシア侵攻」の日を、「国民統合の日」に衣替えして国内の引き締めを図っている。国境周辺の軍事的な脅威も見解が分かれる。これも情報戦争の一環だろう。
この情報戦争、どちらの言い分が正しいか分からない。双方が真剣に相手を欺こうとしているだけに、情報の信憑性を問うても意味がないだろう。そうした中でジョークに交えて相手の虚をつく巧妙な話題提供もあった。ロシア外務省のザハロワ報道官は16日、自身のSNSに次のように書き込んだ。「偽情報を流すアメリカやイギリスのメディアには、ロシアによる『侵攻』の次の計画がいつかぜひ教えてほしい。私はその日に休暇をとりたい」(NHK)と痛烈に皮肉った。歴史や価値観の違いが根底にあるウクライナをめぐる大国同士の情報戦争。側から見て楽しむのは良くないと承知しつつ、ロシア外務省の女性報道官に「座布団一枚」と声をかけたくなった。
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