【ワシントン=田島大志】ロシアがウクライナへの攻撃に踏み切ったことで、侵攻阻止に向けた外交努力を続けてきた米国のバイデン政権にとっては大きな打撃となった。北大西洋条約機構(NATO)などの同盟国と連携して対応にあたる構えだが、ロシアに対抗する手段は限られており、バイデン政権は試練に直面している。

団結を強調

 攻撃開始後、米国のブリンケン国務長官とオースティン国防長官は、NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長と電話会談し、対応を協議した。ブリンケン氏は会談後、ツイッターで「我々はロシアに対応し、NATO東側(の防衛)を強化するため団結する」と強調した。

 バイデン大統領はNATO加盟国でないウクライナへの軍事介入は行わない方針で、追加制裁以外は打つ手が乏しいのが実情だ。東欧に増派されている米軍は、ウクライナから陸路で隣国に脱出する避難者の急増を想定し、ポーランドでの収容キャンプ運営など、後方支援に回る見通しだ。

対話実らず

 バイデン氏には副大統領を務めたオバマ政権下での2014年、ロシアのクリミア侵攻を防げなかった苦い経験がある。このため今回は、軍事侵攻の口実をでっち上げるロシアの「偽装工作」に関する情報や、軍内部の指示などの機密を積極的に同盟国などと共有し、「厳しい代償を払わせる」と制裁発動をちらつかせて侵攻抑止を図ってきた。

 一方で、トップ間の直接対話も重視し、昨年12月7日にはオンライン形式でプーチン大統領と会談して自制を促した。12月30日と今年2月12日にも相次いで電話会談し、緊張緩和に向けた糸口を探ってきた。そうした努力が実らなかったことで、米政府内には無力感が漂う。

理想と現実

 バイデン政権は発足直後から、米欧日などの民主主義国との関係を再構築して一致した対応を取り、「唯一の競争相手」と位置付ける中国をはじめとする「専制主義国」に対抗することで、外交の主導権を握る戦略を描いてきた。

 だが、実際はロシアに振り回され、対中国との「二正面作戦」を余儀なくされている。対中抑止の具体的な政策は打ち出せず、北朝鮮はミサイル発射で挑発を繰り返している。ウクライナ情勢を巡るロシアの姿勢を中国は批判せず、中露の接近も鮮明になった。

 トランプ前大統領はロシアによる攻撃開始直後、米FOXニュースに出演し、「中露を一緒にしてしまったのは最悪だ。プーチン氏は、この政権の弱さと無能さを目の当たりにしている」とこき下ろした。

 昨年8月にアフガニスタンからの駐留米軍撤収を巡って混乱を招いた後、各種世論調査でバイデン氏の支持率は急落した。今年11月の中間選挙に向け、バイデン氏はさらに厳しい状況に追い込まれている。