ロシアのプーチン大統領はきのう、隣国ウクライナへ侵攻した。侵攻は親ロシア派が占拠している東部ドンバス地区にとどまらず、首都キエフをはじめ西部、東部、南部の幅広い軍事施設を狙い撃ちした電撃作戦だった。侵略を先導したのはミサイル攻撃や空爆で、ウクライナ軍の制空能力を無力化した上で主要な軍事施設をピンポイントで破壊した。詳細は不明だがこれによってウクライナ軍は戦闘能力の大半を喪失したとみていいだろう。侵攻はおそらくロシア軍の想定通りに展開したとみて間違いない。何カ月もかけて練りに練ったプーチンの侵攻計画は完璧に実行された。そして驚くことにこの計画の概要を、プーチン大統領並びに米国の政権幹部は折に触れて口にしていたことである。米国は完璧とはいかないまでも、かなり正確にプーチンの侵攻計画を事前に把握していた可能性がある。知りながらそれを許した。今になって思えば、そこに一つの謎があるような気がする。

電撃戦で幕をあけたプーチンの最終目的は何か、気になるのはその点だ。ブルームバーグが配信した次の記事にヒントがあるような気がする。「ロシアの狙いは『電撃戦』、ウクライナ軍の迅速な破壊-専門家が見解」(2022年2月25日 0:11配信)。この記事の中に、モスクワを拠点とする軍事アナリストのパベル・フェルゲンハウアー氏の見解が引用されている。同氏は「(目的は)プーチン氏の『非武装化』を目指すとした発言に最も端的に表れている」と指摘する。要するに「フランスよりも大きな国土を持つウクライナの占領ではない」との見方だ。「ウクライナの軍事力は完全に解体され、兵器は一掃され、ウクライナをロシアが全く抵抗を受けることなく好きなように扱える緩衝地帯へと転換することだ」と分析。目的はウクライナの占領ではなく、緩衝地帯化だというのだ。古い発想を纏ったプーチンの新しい視点かもしれない。

ウクライナは現在NATOに加盟していない。米国もNATOもウクライに対して防衛の義務を負っていない。今回の危機に際しても最初から、ウクライナに軍隊は派遣しないことを表明している。だからプーチンの作戦は無抵抗に近い形で成功する。バイデン大統領もそこは最初から読み切っていたのだろう。だから「小さな侵攻なら・・・」と口を滑らしてしまった。そして、侵攻した場合は「大きな代償を払う」と折に触れてプーチンを牽制し続けた。これに対してプーチンはこと細かく、誰にでもわかるように手順を踏んで侵攻計画を進めていく。「外交継続」というラブロフ外相の提案を受け入れながらドネツク、ルガンスクを国家として承認して、対話にかけるバイデンの本音を探りに行った。米国が首脳会談を拒否したことを確認した上で、ウクライナ侵攻にゴーサインを出している。この手順は説得力を持つ。ロシア国民には「ロシアを守る手はこれしかなかった」とテレビで訴える。明らかに初戦はプーチンの大勝利だ。そしてこれから経済制裁を中心とした長期戦が始まる。これをじっくり見守る中国の習近平。人権国家と強権国家の長い戦いが始まった。