[サンフランシスコ 7日 ロイター] – 米電気自動車(EV)大手、テスラのマスク最高経営責任者(CEO)などの自動車業界首脳が描く、より手頃な価格で買えるEVを販売するという夢は、しばらく実現が遠のくかもしれない。既に起きていた原材料コスト高騰が、ロシアのウクライナ侵攻で一層加速しているからだ。

EVの最も高額な部品であるバッテリーのコストは長期的な低下基調にあったが、ニッケル、リチウムなどの資源価格が軒並み跳ね上がったことで、その流れにブレーキがかかるばかりか、一時的に反転する恐れさえ出てきた。このことがEV技術の普及を阻みかねないとベンチマーク・ミネラル・インテリジェンスのアナリスト、グレゴリー・ミラー氏は話す。

悪材料はほかにもある。サプライチェーン(供給網)は既に新型コロナウイルスのパンデミックで寸断され、世界的な半導体不足も解消していない。

ミラー氏は「原材料価格上昇が、EVと内燃エンジン車のコスト均衡化の時期を遅らせる可能性がある。それがEV普及の足を引っ張りかねない」と指摘。今年はリチウムイオンのバッテリーセル(単電池)価格が、初めて前年比で上昇してもおかしくないとみている。

ウクライナで戦争が始まった影響で、7日にはニッケルとアルミニウムの価格が過去最高を更新した。最大生産国のロシアからの輸出が途絶するのではないかとの不安が広がっているためだ。リチウムも増大する需要に供給が追いつかず、価格は昨年末から2倍以上になった。

ベンチマーク・ミネラル・インテリジェンスによると、ロシアの金属大手・ノルニッケルは、EV用バッテリーに使われる高純度ニッケルの世界供給量の約20%を生産している。ロシアは、やはりバッテリーに利用されるアルミニウムの大口供給者でもある。

一方、原油価格が7日に2008年以来の高値を付けたことは、EVにとって明るい材料になるだろう。ここ何年もガソリンを大量に消費するスポーツタイプ多目的車(SUV)やピックアップトラックの需要が拡大してきたが、原油高でEVへの関心が高まるとみられる。

それでもテスラや新興EVメーカーのリビアン・オートモーティブが、過去1年間でEV販売価格を引き上げてきた事実は重い。一般の消費者は、まだ全面的に普及していない技術に多額の「割り増し価格」を払う気持ちはないからだ。

コックス・オートモーティブのデータに基づくと、今年1月に米国で販売されたEVの平均価格は約6万3000ドルと、自動車業界全体の平均である4万6000ドル強より35%前後も高い。コックスが調査したところ、消費者の間でEV走行中に電気がなくなって立ち往生する心配は減っているものの、価格は引き続き大きな懸念事項となっている。

<値上げに厳しい消費者>

コックスのアナリスト、ミッシェル・クレブス氏は「コストを増やす要素は、何であれEV普及の妨げになる」と説明する。

国際エネルギー機関(IEA)によると、世界全体の自動車販売台数に占めるEVの比率は、昨年時点で約9%だった。コンサルティング企業のアリックスパートナーズは、2030年までにEVのシェアが24%前後になると予想している。

しかし、OC&Cグローバル・スピードメーターが米国と中国などの消費者に対して昨年実施した調査では、半数を超える消費者が、EVの運用コストが相対的に低いにもかかわらず、購入時に500ドル余計に支払うつもりはないと回答した。

こうした状況は、自動車メーカーが富裕層ではなく一般消費者をEV市場に取り込もうとする場合、制約になる恐れがある。

テスラは2020年12月以降、最も廉価な「モデル3」の価格を18%引き上げて4万4990ドルとしている。さらにマスク氏は今年1月、ほかに課題が多過ぎることを理由として、同氏が20年に約束した2万5000ドルの「より安いEV」の開発は進んでいないと発言した。

リビアンは先週、電動ピックアップトラックと電動SUVの価格を20%引き上げ、部品コストの高騰が業績に及ぼす悪影響を払しょくしようとしたが、既に受注していた顧客向けの値上げは撤回した。顧客からの反発が大きく、注文取り消しなどの事態になる可能性があったためだ。

別の米新興EVメーカー、ルーシッド・グループは、まだ値上げには踏み切っていない。ただ、ハウスCEOは2月、サプライチェーン関連コストの増大対策として「価格問題を検討しているのは間違いない」と述べた。

中国では、「欧拉(ORA)」の長城汽車や「宏光MINI」の五菱といった最低価格帯のEVを製造するメーカーが、リチウム価格上昇の重圧に悩まされている。投資家の話では、これらのメーカーは値上げ余地が乏しいという。

新興メーカーの場合、とりわけプレッシャーがきつい。センター・フォー・オートモーティブ・リサーチの技術ディレクター、ブレット・スミス氏は「零細企業ならば、サプライヤーに納入価格を下げてと言える力はない」と指摘した。

業界関係者によると、バッテリーメーカーは自動車メーカーと長期契約を締結するのが普通で、そうした契約の下で取引価格はリチウムやニッケル、コバルトといった主要原材料の値上がりに連動して切り上がる仕組みだ。

テスラやゼネラル・モーターズ(GM)のサプライヤーとなっているLGエナジーソリューションは、バッテリー製造コストの70%ないし80%は原材料が占めると明らかにしている。

ベンチマーク・ミネラル・インテリジェンスは、昨年を通じた原材料価格の上昇を受け、バッテリーメーカーは昨年終盤にリチウムイオン単電池の販売価格を引き上げ始めたと述べた。

(Hyunjoo Jin記者)