ウクライナ軍への武器供与に向けて、EUの空気が明らかに変わってきた。ひと言で言えば経済制裁から重火器を含む積極的な武器供与へと転換しつつある。ブチャでの惨劇が明らかになったことを受けて、狂いはじめたロシア軍を止めるための武器供与の必要性が認識されはじめたようだ。ブルームバーグによると、「従来は穏健だった一部の欧州諸国でさえウクライナへの軍事支援強化を主張」(ブルームバーグ=BB)しているという。以下はBBからの引用。ドイツのベーアボック外相は軍需品、とりわけ重火器をさらに送るべきだと主張している。同氏は伝統的に平和主義を掲げる緑の党に所属する。ルクセンブルクのアッセルボルン外相は「制裁か武器か、どちらがより重要かを判断する問題に直面している。私の結論は、今では武器だ」と述べた。ポーランドのモラウィエツキ首相は第2次世界大戦以降で「最大の戦車戦」を間もなく目にすることになると予想した。

オーストリアのネハンマー首相がきのうEU首脳として初めてプーチンと対面での首脳会談に臨んだ。プーチンに対して率直にウクライナの惨劇を伝えたようだ。だが、会談後に「楽観的に報告できる内容はない」との認識を示した。そりゃそうだろう。プーチンはブチャでの民間人殺害は「ウクライナ人(によるもの)だ」(毎日新聞)と発言したというのだ。完全に狂っている。オーストリアは永世中立国でNATOにも加盟していない。公平で中立な国だ。その首相に向かってなんという暴言か。会談は1時間弱で打ち切られたという。プーチンにしては短い首脳会談だ。想像するにプーチンは真実を伝えられて“切れた”のではないか。そしてドンバス地方に総攻撃をかける準備をしている。ゼレンスキー大統領はきのう、「週内にも東部でロシア軍が広範な攻撃を仕掛けてくると予想している」(NHK)と述べている。総司令官を任命したロシア、ウクライナ国防省は「応戦する準備はできている」と迎え撃つ構えだ。

思い出すのはバイデン大統領の「第三次世界大戦は避ける」という基本戦略だ。自らは軍隊を派遣してウクライナを支援することはせず、経済制裁を中心にロシアをジワジワと締め付ける。西側諸国やNATOにもこの基本戦略への同調を求めてきた。その結果行き着いたのが重火器を含む積極的な武器供与だ。ドイツ・ベーアボック外相の主張がこの流れを象徴している。これはもう明らかに第三次世界大戦だ。そこまでは言い過ぎだとしても、入り口に差し掛かっていることは間違いない。逆に言えば、ここまでしなければ狂ったプーチンを止められなくなっている。この先には化学兵器や原爆といった“禁断”の武器も待ち構えている。バイデン大統領はちょっと前に断言している。「この男が権力の座にとどまり続けてはいけない」(朝日新聞デジタル)。その通りだ。いまこそ米国を筆頭に西側には、この発言を担保する戦略が必要だ。