ABEMA TIMES

 世界でも有数の小麦生産量を誇るウクライナ。ロシアによる軍事侵攻の影響で収穫済の小麦が輸出できない状況にあり、畑には不発弾も点在、ロシア軍の撤退後もなお、穀物生産に深刻な影響が残りそうだ。 

【解説映像】“小麦争奪戦”ウクライナ港から輸出できないワケ 輸入減&高騰の恐れ  

こうした状況にG7=主要7カ国外相会合は14日、“ウクライナから穀物を輸出する経路を破壊するなどして世界に食糧不安、栄養不良を引き起こしている”としてロシアを強く非難する共同声明を採択。カナダのジョリー外相は「特に中東やアフリカで何百万人もの人々が飢餓に直面することになる」と危機感を露わした。

 そんな中、小麦の生産量で世界2位のインドが国内での価格上昇抑制のため輸出を停止すると発表。国際価格のさらなる上昇が懸念されている。

 16日の『ABEMA Prime』に出演した農林中金総合研究所の平澤明彦・基礎研究部長は「ウクライナとロシアの小麦が出てこなくなることに加えて、本来なら穴を埋める存在であるアメリカが昨年は不作、今年も干ばつで良くない状況だ。そこで期待がかかっていたのがインドだが、やはり良くない、ということだ。春頃の予想よりも厳しい状況で、やはり輸入に依存していると何かあった時に困る、ということが改めて感じられる」と話す。

 「小麦はもともと地中海の作物なので、日本の土地には必ずしも適さない。本格的に生産しようとすれば、土地・品種改良も必要だ。だから国内では必ずしも小麦にこだわる必要はない。例えば餌用のトウモロコシや牧草など、農地を有効に活用する方法を総合的に考え、適地適作でやっていくのが大事だと思う。

 かつては輸入国といえば日本しかないような状態だったし、経済力もあったので好きな物を好きなだけ買えた。しかし今や最大の輸入国は中国で、しかも日本の経済的地位がどんどん低下してきているので“買い負け”も増えている。日本国内でもお米はたくさん作っているが、それだけでは我々の食糧は足らない。

 国も何かあった時のために国内の生産力を最低限維持しようとしていて、そこで農水省が考えたのが、非常時にはみんなに芋を食べてもらいましょうというものだ。ただ、これも輸入自由化に押されて国内の農業が細っているため、あと10年もたたないうちに芋も食べても足りないぐらいまでのところまで行くだろう。景気とは別のところで食料の確保が心配な状況になってきているということだ」。

 一方で、日本の食料自給率が低いことは広く知られている。

 「先進国としてはかなり低い。通常、食料自給率の低い国というのは、非常に寒いとか砂漠があるとか、あるいは都市国家であるといった理由が多いが、日本のように人口が1億人を超えてこれだけ低いのは世界に日本だけだ。

 理由は概ね3つある。1つ目は農地が足りないこと。今の3倍、4倍はないと足りない。2つ目は、農家1軒あたりの農地が少ないこと。つまり経営の規模が小さく、貿易自由化の流れの中で国際競争力が弱いので、国内農業全体がダメになっていく。農業従事者が減った分だけ経営規模を拡大してもらうというのが国の方針なのだが、農家をやめる方が多いので全く間に合っていない。  

 3つ目が政策だ。不思議なことに、日本は農地が足りないはずなのに、なぜかお米が余っている状況が50年も続いている。それは戦後、お米だけを保護し、他は自由に輸入するような体系の政策をずっと取ってきたからだ。しかし日本の農地のかなりの部分を占める水田も、いまや4割が余っている。今世紀末までに人口が半分以下になるとすれば、水田が4分の1しか要らなくなる。お米が余っているところは他の作物を作れるようにし、維持していく。そこの“仕立て直し”をきちんとやらなければいけない。

 もちろん、畑に適した土地ばかりではないし、畑にしてダムや水路を廃止してしまえば簡単に戻せないという問題もある。あるいはお米の産地に“やめてください”と言っても、皆さんの納得は得にくいだろう。ただ、農水省が有機農業を増やす方針を示しているので、結果的にお米の生産力が下がる可能性がある。これは輸入に依存している化学肥料を減らす効果も見込めるので、食糧安全保障に貢献する可能性がある」(平澤氏)。

 東洋経済新報社の山田俊浩・会社四季報センター長は「小麦に関しては重要な食糧ということで政府が一括して輸入し価格を決める制度を採っているので、手に入らなくなったり数十倍に価格が高騰したりするようなことは起きないと思う。一方で、かねてから議論されてきたように、米の消費量が減るのに伴って減反も進められてきたが、そうした田んぼで稲作をすぐに再開できるかといったら、そういうわけではない。また、稲作放棄地を太陽光発電に使ったことでトラブルが起きると言った政策上の問題も生じている。地政学的な問題は長期化すると考えれば、食料の安全保障とエネルギーの安全保障というのは一体だと思うので、併せて考えて行く必要があると思う」とコメント。

 ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「田舎に行くと耕作放棄地が山ほどあるが、山間の棚田のような所も多く、機械化や法人化は難しいだろうと感じる。あるいはおじいちゃんおばあちゃんが出荷せずに自宅で食べたり、近所の人に配ったりするために野菜を作っているというケースも多い。一方で都会には農業をやりたいという若者や移住希望者もいる。可能性はあるはずなのに、あらゆるものがミスマッチになっているのが残念だ」と話した。

 平澤氏は「ここ10年ぐらいで、ものすごい数の企業が参入しては撤退してきた。やはり地形や資源などの問題もあり、競争力がそれほどはないということ。本当に儲かるようであれば、企業が入る前に農家の若者が跡を継ぐはずだ。やはり農地をフル活用できるような政策の体系を作ること。それから若い人が入りやすくし、農家の所得をきちんと支える体系を立て直すことだと思う。スイスなどでは補助金をかなり入れて若い人に入ってきてもらっている。そうしたところも見習っていってはと思う」と話していた。(『ABEMA Prime』より)