プーチンのウクライナ侵略は世界中に改めて安全保障のあり方を提起した。それ以上に食糧危機が目の前に迫っているという現実も抉り出した。戦争で物価が急騰、ロシアが黒海を事実上封鎖したことで、ウクライナの小麦が輸出できなくなっている。世界には飢餓で苦しむ人が何億人もいる。こうした人たちは戦争の犠牲者でもある。ロシアが苦しめているのはウクライナの無辜の人々だけではない。飢えに苦しむ貧しい人々の“生きる糧”を奪おうとしている。こうした中で国連が動き出した。きのう食糧安全保障について話し合う閣僚会合が国連で開かれた。米国主導の会議だが、約40カ国が参加。朝日新聞によるとグテレス事務総長は「(このままだと)数カ月で世界的な食糧不足の不安に直面する」と訴えた。

会議を主導したブリンケン国務長官は「(ロシアの侵略が)食糧危機を悪化させている」(朝日新聞)と暗にロシアを批判。集中砲火を浴びる形になったロシアのネベンジャ国連大使は、「西側の制裁がロシアの食糧と肥料輸出を冷え込ませている」(同)と開き直る。国際会議とはいえ、ブリンケン長官がロシアを名指しで非難しないことに違和感を感じるが、攻める方も攻められる方も発言は常に政治的。ウクライナ代表は「世界の食糧安全保障のために最も重要なことは、ウクライナの農作物の輸出を認めることだ」(同)と主張する。世界最大の小麦輸入国であるエジプト代表は、「アフリカでは5人に1人が飢餓の危機に直面している」(同)と訴えるが、ロシアの独善的な発言に押し切られてしまうのが実態だ。かくしてウクライナやエジプト代表の切実な訴えは陽の目を見ないのである。

日本も小麦のほぼ100%を輸入に頼っている。日本にとってウクライナ戦争は安全保障に思いを巡らせる契機であると同時に、食糧安全保障を考えるまたとない機会になったと言ってもいいだろう。政府は先頃「経済安全保障推進法」を成立させた。だがこの法律は半導体やAIなど最先端技術を対象とした戦略物資の国内供給促進を目指したもの。日本人の命に直結する食糧は対象になっていない。Yahooが数日前に配信したニュースの中にこんな一節があった。日本は食糧自給率が低いことで知られるが「通常、食料自給率の低い国というのは、非常に寒いとか砂漠があるとか、あるいは都市国家であるといった理由が多いが、日本のように人口が1億人を超えてこれだけ低いのは世界で日本だけだ」(農林中金総合研究所の平澤明彦・基礎研究部長)。食糧安保はどうあるべきか、ウクライナ戦争が日本突きつけた課題のような気がする。