期せずしてというべきか、日米中央銀行の前現トップ2人がきのう、議会で謝罪した。イエレン氏(現財務長官)は昨年、インフレは「一時的」との見解を長期にわたって維持した。この認識が間違いだったと認めて謝罪した。一方、黒田東彦日銀総裁は、6日に都内で行った講演で「家計はインフレを受け入れている」と発言、これが誤解を招く発言だったとして謝罪した。イエレン氏はパウエルF R B議長の前任者。イエレン氏と歩調を合わせるかのようにパウエル氏も、インフレは「一時的」との見解を長い間維持していた。そのパウエル氏は謝罪したあとインフレタカ派に転身した。日米で前現中央銀行トップ2人が謝罪する事態になったわけだが、対象はいずれもインフレ。裏を返せばインフレに対する認識はそれだけ影響が大きいということか。日本の国会では立憲民主党が岸田内閣のインフレ対策が不十分だとして、内閣不信任決議案を提出する準備を進めている。なんていうか、これも的外れだ。
イエレン氏とパウエル氏が共闘していたかどうか、そこは分からない。ただ昨年の年明け早々から米国ではインフレが進行しはじめ、マーケットでは10年国債の利回りが上昇(価格は低下)に転じた。これを牽制するかのように財務長官に転じていたイエレン氏は「インフレは一時的現象」と折に触れて主張した。パウエル氏もこれに歩調を合わせて同じ主張を展開した。その結果、マーケットでは長期国債の利回り上昇が一時的に止まり、株価が急騰するといった現象もおこった。結果は言うまでもない。プーチンによるウクライナ侵略も重なって、物価は急騰に転じた。挙げ句の果てに今年の3月にはF R Bが政策金利を0.25%引き上げた。5月にも0.5%引き上げたが6月、7月と、さらに0.5%の利上げが実施されるとの見通しになっている。一部専門家の間からは「パウエル議長の読み間違いが今日の深刻なインフレ招いた」との批判も飛び出す始末。インフレ見通しの難しさと結果の深刻さを浮き彫りにした。
そのインフレ、日本の黒田総裁はいまだに「一時的」との認識を維持している。それに加えて6日の講演では、きのうのこの欄で書いた通り「日本の家計の値上げ許容度も高まっている」と発言した。詳細は昨日の欄に譲るが、「発言が波紋を呼ぶ可能性もある」と指摘した朝日新聞の読み通りの展開になった。一夜明けたきのうの参院財政金融委員会。同紙によると質問に立った野党議員からは「総裁の発言に、生活者不在と感じた」などと厳しい指摘が相次いだという。これに対して総裁は「値上げ許容度を様々な指標で測っていたので、その言葉を使ったが、必ずしも適切でなかった」と謝罪した。総裁はいまだにインフレは「一時的」、給付金などで「家計には余裕がる」との認識があるようだ。これが政策に合わせて実態を解釈する“癖”を植え付けたのではないか。実態をありのままに観察して政策を決める、これがあるべき姿だ。イエレン氏は実態に合わせて謝罪し利上げを容認した。黒田氏は言葉遣いを訂正した。実態より政策を優先する姿勢は変わらない。同じ謝罪でも意味するところは全然違う。
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