ロイターによると「欧州議会は8日、欧州連合(EU)の炭素市場改革法案を否決し、議会の委員会に差し戻して再策定させることを決めた。EUにとって最大規模の気候変動政策に関して意見の対立を露呈した。炭素市場改革の実施が遅れる可能性がある」と報じている。プーチンのウクライナ侵略でこのところすっかり影を潜めた脱炭素問題。露呈した「意見対立」の中身が知りたくなった。記事によると「緑の党と欧州社会党の議員らは、保守派の修正案が法案を骨抜きにしたとして反対票を投じた。右派グループの議員らはインフレ圧力が高まる中、法案は野心的過ぎるとして反対に回った」。欧州議会の左派に属する人たちは「骨抜きだ」と言い、保守派は「野心的過ぎる」と反対している。改革案は左右両派の異なる理由による反対して否決された。改革が遅れることよりも、左右両派が揃って反対している状況に、問題解決の難しさが隠れているような気がする。

脱炭素問題で世界をリードしているE U。2050年に炭素排出量を実質ゼロにする取り組みの一環が今回の改革案だ。この案には①オークション取引②排出権取引制度(ETS)という2つの項目が含まれている。問題となったのはどうやらこのうちの排出権取引。ロイターは「排出権取引制度を強化するか弱めるかで意見が分かれ、炭素市場法の最終案に関する交渉について立場を確認する試みは挫折した」と解説する。要するに規制をしたい左派からみれば「骨抜き」であり、緩めたい右派からみれば「野心的すぎる」というわけだ。左右どちらかの反対で否決されたのなら修正はしやすい。反対派に配慮して妥協をはかればいい。だが、この改革案は左右両方とも反対している。反対する理由も真っ向から対立する。どんなに対立してもトコトン話し合うのがE U流。足して二で割る余地はどこにもない。

どうやって問題は解決されるのだろうか。ひとごとながら興味深い。記事によると議会の主席交渉官を務めるピーター・リーゼ氏は、委員会に対して支持を得られるような法案を再度策定するように求め「本日、反対票を投じた人たちはもう一度考えてみてほしい。どうかETSをつぶさないでほしい」と訴えたとある。例えてみれば線路の真ん中で右に行けという人と、左に行けという人が対峙している。改革案の再策定を求められた委員会はおそらく途方に暮れているだろう。頼みの綱はリーゼ氏のいう「もう一度考えてみてほしい」の一言か。壮大な地球環境の救済策である脱炭素。その先導役を務めるE Uは産みの苦しみを味わっているというわけだ。多少遅れても一人でなんでも決めるロシアや中国、北朝鮮といった強権国よりはるかに大きな希望がある。プーチンのウクライナ侵略で地球環境は一段と悪化しそうな雲行きだ。その分E Uへの期待感は膨らむ。頑張れ委員会。