いわれなき暴徒の凶弾に倒れた安倍晋三氏の通夜が昨夜営まれた。メディアによると参列者は2500人に達したという。その中には来日中のイエレン米財務長官の姿もあった。突然の訃報、安倍氏の交流の広さと、生前の影響力を垣間見せる通夜のようだった。そんな中でメディアには安倍氏亡きあとの政局、自民党の権力構造の変化に関する記事がチラホラと出始めている。生き馬の目を抜く政界のこと。安倍氏の功績を偲ぶ前に権力構造の変化に政治家の関心が向かうのはいつものことか。毎日新聞は「安倍氏不在で変わる政界の構図 保守離れで政権支持率低下も」との観測記事を掲載した。安倍氏と着かず離れずできた岸田氏は、気遣いの対象だった保守派の代表である安倍氏の退場で、政権運営の自由度が増すと見られている。権力基盤はこれまでより遥かに堅固になると見ていいだろう。だが、それが逆に政権の支持率低下につながるとの見立てだ。
政治家とは不思議な生き物だ。政権基盤が弱い方が支持率は高くなるという。保守派から「何もしない」と揶揄されてきた岸田政権の支持率が、これまで比較的高かったのはそのせいかもしれない。政治家の発する言葉が本心と関係ないことは常識だ。その昔、田中角栄氏が病に倒れ時、後継候補だった竹下登氏は「ご病気のすみやかな回復を心の底から願っています」と大臣懇談の席で語っていた。言葉は神妙そのものだった。だが、表情は満面に笑みが浮かんでいた。頭を押さえられていた田中氏の病気退場で重石が取れたのだろう。解放感と首相への道が開かれた喜びが溢れていた。選挙開票で終始鎮痛な表情を貫いていた岸田氏、内心はどうだったのだろう。安倍元首相の死去という惨事に見舞われた自民党、参院選の開票速報で多くの候補者が喜びを噛み殺していた。そんな中で麻生副総裁だけは、誰憚ることなく笑みを浮かべていた。
余談は置くとして、安倍亡きあとの政局はどこへ向かうのか。ポイントは積極財政か財政再建か、その選択にあるような気がする。積極財政を推進しようとしていたのが安倍氏、財政再建に比重をおこうとしていたのが岸田氏だ。当選同期のこの二人、広島と山口で生まれ育った政治の名門家系出身のプリンスだ。二人ともなるべくして首相になったと言っていいだろう。だが思想も心情も違う。片や岸信介氏を祖父とする保守派の代表、もう一方は池田勇人氏を源流とする中道派・宏池会の会長である。これまで安倍氏は岸田政権の“重石”の役割を担ってきた。その重石が取れた時、自民党内の権力構造がどう変わるか、これがこれからの最大の焦点になる。どの道を進むかによって日本の未来は大きく変わる。一部には麻生副総裁の存在感が増すとの見方がある。開票速報を見守りながらにじみでた同氏の笑みは、それを裏付けていたのだろうか・・・。
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