[東京 21日 ロイター] – 日銀の黒田東彦総裁は21日、金融政策決定会合後の会見で、2022年度の物価見通しが目標の2%を上回ったとはいえ、国際商品市況の上昇を反映したものに過ぎず、持続的・安定的な物価目標の実現には至っていないと指摘し、改めて金融緩和を継続していくと述べた。金利に上昇圧力がかかる中、10年金利を0.25%に抑制することに伴う副作用が出ているが、金利の誘導目標や許容上限を引き上げる考えはないと強調した。
黒田総裁は為替を目的とした政策運営を改めて否定。ただ「金利を少し引き上げたら円安が止まるとは到底考えられない」とし「本当に金利だけで円安を止めようという話であれば大幅な金利引き上げになるが、経済にはすごいダメージになる」と述べた。
<物価観、完全には変わっていない>
日銀は21日公表した最新の「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)で、2022年度の物価見通しを前年度比プラス2.3%とし、前回4月時点のプラス1.9%から上方修正した。
黒田総裁は、22年度の物価見通し引き上げは国際商品市況の上昇を反映した輸入物価の上昇が大きいと指摘。2%の物価安定目標の持続的、安定的な実現には至っておらず「金融緩和を継続する必要がある」と強調した。企業の賃上げについて「進んでいることは事実だが、2%程度の消費者物価には追いついてない」とし、もう一段の賃金上昇が必要と述べた。
より物価の基調的な動きを示す生鮮食品・エネルギーを除く消費者物価指数(コアコアCPI)の見通しでは、見通し期間を通じて緩やかに上昇率が拡大する一方、24年度はプラス1.5%で前回と変わらなかった。
黒田総裁は、価格転嫁が進み、中長期の予想インフレが緩やかに上昇しつつあるが「コアコアCPIが2%になる状況にはなっていない」と指摘。「従来の非常に慎重な物価観が完全に変わったとはみていない」と語った。
<市場機能確保しつつ緩和の効果>
黒田総裁はイールドカーブ・コントロール(YCC)の枠組みを堅持する姿勢を強調した。「イールドカーブ・コントロールのもとでの金利を引き上げるつもりは全くないし、プラスマイナス0.25%というレンジも変更するつもりもない」と述べた。
金利に上昇圧力が掛かる中、6月は日銀が国債買い入れを積極化して10年金利を0.25%で抑え込んだ。その結果、一部の銘柄で流動性が低下し、債券先物と現物の裁定機能が一時的に働かなくなるなどの副作用が生じた。
黒田総裁は「プラスマイナス0.25%の範囲内であれば、市場機能をある程度確保しつつ金融緩和の効果を発揮させることができる」とし、債券市場の機能度向上のために「(許容上限を超えて)どんどん金利を上げてしまうと金融緩和にならない」と指摘。「そういうことは考えていない」と明言した。
<為替市場は「ドルの独歩高」>
外為市場で円安が急速に進行していることについては「先行きの不確実性を高め、企業による事業計画の策定を困難にするなど経済にマイナスであり望ましくない」と指摘。日銀として「政府とも緊密に連携しつつ、為替市場の動向やその経済・物価への影響を十分注視していきたい」と述べた。
足元の為替動向については「ドルの独歩高だ」との見方を示し、米国と同様に利上げを行っている韓国のウォンなどに対してもドル高が進んでおり、金利差だけがドル高の理由ではないと語った。
<安倍元首相死去、金融緩和は揺るがず>
今回の決定会合は、安倍晋三元首相の死去後、初めての会合となった。黒田総裁は安倍元首相の死去に哀悼の意を示した上で、アベノミクスに関して、政府の政策と日銀の強力な金融緩和策によって賃金のベースアップや雇用の大幅な増加などデフレ期に見られなかった変化があったと説明。この間の大規模な金融緩和は経済・物価の押し上げ効果をしっかり発揮しているとし、引き続き日本経済の中長期的な成長を「金融面から支えていきたい」と語った。
9月末に期限を迎えるコロナ対応特別オペの扱いについては、感染が急拡大していることを踏まえ「もう少し様子を見て9月に(取り扱いを)決定することにした」と話した。
(和田崇彦、杉山健太郎 編集:石田仁志、青山敦子)