これは米ロの見解の違いではない。ロシアの将来を左右する問題であり、プーチン政権の信任、政権が機能しているかいないか、すべからくロシアの統治に関する深刻な問題だという気がする。ことの発端は26日、ロシア国営宇宙開発企業ロスコスモスの社長に就任したボリゾフ氏の発言だ。同氏は今月15日にプーチン氏にロスコスモス社長に任命されたばかり。プーチンと面談して次のように語った。「2024年に国際宇宙ステーション(ISS)計画から離脱することを決めた」(ロイター)。「パートナーに対する義務は全て果たす」(同)。これに対して米国はNASAのISS部門ディレクター、ロビン・ゲイテンズ氏が「ロシア側から政府間協定の下での義務に基づく公式な通達は受けていない」(同)と、即日コメントした。離脱はボリゾフ氏の個人的な見解か、ロシアの正式な決定か。なぜテレビで流したのか。

明けて27日、今度は米国が挑発する。「ロシアは2028年までI S Sから離脱しない」との見通しを表明したのだ。情報源はどうやらロシアの現場担当者のようだ。米航空宇宙局(NASA)に対してロシアの当局者は内々に、「ロシアは少なくとも2028年に独自の宇宙ステーションを開発するまではISSから離脱することはない」(同)との趣旨のことを通知してきたという。ロシア側がプーチンとボリゾフ氏の会談をテレビで公開したのに対し、米国側の情報は関係筋の話として伝えられている。本来なら大統領と担当社長が対面し、国民に周知した情報の信頼性は高いはずだ。だが、個人的には米国の情報に真実性、信頼性があるような気がする。ボリゾフ氏の発言はフェイクとは言わないが、国民向けの決意表明なのだろう。プーチンはこれといった反応を示していない。状況が悪くなればボリゾフ氏の責任にするのだろう。

ウクライナの穀物輸出に署名した翌日にロシア軍はオデーサの港をミサイルで攻撃した。信じられない光景がテレビを通して目の前に広がった。穀物輸出を認めた直後にこれを否定する。これについて色々な説が流れている。事実関係の解明には時間がかかるだろう。だが、個人的にはこれもプーチンの権力の衰えだと思っている。要するに独裁者プーチンをロシアの軍部や官僚、現場にいる市民が信用しなくなっているのではないか。そんな気がするし、そのように見えてしまうのだ。ロシアは独力で国際宇宙ステーションを開発すると言っている。本当にそんなことができるのだろうか。高精度の半導体も自前で調達できないばかりか、優秀な科学者がどんどん国外に逃げている。I S Sの現場担当者にすれば「24年に離脱することは無理」と言いたいのだ。それは懸命な判断だと思う。プーチンはすでに裸の王様になっている。中国だってそんなプーチンに魅力を感じないだろう。