きのうロイターが配信した「焦点:ウクライナ侵攻で賠償請求は可能か、市民が直面する高い壁」と題した記事を読みながら、プーチンの非情な攻撃に対する怒りが改めてフツフツと湧き上がってきた。長い記事だが書き出しは次の通りだ。「ウクライナの首都キーウ(キエフ)郊外ブチャに住むビタリー・ジボトウスキーさん(51)は、今年前半、ロシア軍がこの街を占領していた間に大きな損傷を受けた自宅を何とか復旧しようと努力している。屋根は破壊され、室内は炎に蹂躙(じゅうりん)され、窓の多くは吹き飛ばされている」。プーチンがはじめた「特別軍事作戦」の明らかな犠牲者だ。ジボトウスキーさんはこの家の修復を試みているが、先立つ資金のメドが立たない。そこで戦時賠償の形で支援を得ようと試みている。だがそこには制度と時間という高い壁が存在している。
「ジボトウスキーさんは弁護士の助けを借りつつ、ウクライナ当局と、オランダのハーグにある国際刑事裁判所(ICC)の双方に対し、彼自身が被害者ないし証人となるような『戦争犯罪の証拠』と考えられるものを送付した」。同氏と同じような境遇にいる人はたくさんいる。「勃発から6カ月を経て膠着(こうちゃく)状態に陥った紛争では、数万人が命を落とし、何百万人もの難民が発生し、都市全体が破壊された例も複数ある。ウクライナ政府は14万戸以上の住宅が損傷を受けたか破壊されたと述べており、エコノミストらは、住宅及びインフラの損害額は1000億ドル(約14兆2800億円)を超えると推計している」。この記事によれば住宅に限っても、「14万戸以上が損傷を受けたか破壊された」。住宅を失ったウクライナの人々にとって自宅の修復は目先最大の課題でもある。何よりも必要なのは資金だが、この金は一体誰が出すのか。
ロシアが賠償責任を負うべきだと思う。だが、ことはそんなに簡単ではない。記事によると、ロイターの取材に応じた賠償問題の専門家3人は、「ロシアや国際司法機関、あるいは自国の制度に基づいて補償を受けられる可能性は今のところ小さいと指摘した」とある。仮に賠償を受けられるとしてもそれは何年も先のことで、金額も限定的なものにとどまる可能性が強いようだ。壊したのはプーチンだ。狙ったわけではないにしても、無差別爆撃で結果的に破壊された可能性はある。無差別爆撃は明らかに国際法違反だが、ロシアは「個人の住宅を狙ったことはない」と強弁する。戦争犯罪を立証するためには、厳密な調査が必要になる。資料がそろったとしても立証にはさらに時間がかかる。法律も裁判所もジボトウスキーさんの救済には無力だ。せめて加害者(ロシア)の損害賠償責任を簡潔かつ明瞭に定義し、被害者の救済に当てることはできないか。実現すれば無差別爆撃の抑止力にもなる。