台風14号が日本列島を縦断する中で、英国ではエリザベス女王の国葬が滞りなく終了した。27日に安倍元首相の国葬を控える日本。支持率低迷に喘ぐ岸田首相は20日にNYに向けて出発する。国連総会で演説するためだが、FNNプライムオンラインは「国際秩序の根幹が揺らいでいる今こそ、国連憲章の理念と原則に立ち返り、これをいかに実現するか、国連改革の必要性なども含め、日本の考え方をしっかり発信したい」との岸田首相の“意欲”を伝えている。皮肉を言えば本音は国連改革などではなく、得意の国際政治の舞台で大向こうを唸らせる演説をして支持率アップにつなげたい、そこにあるのではないか。ちょっと言い過ぎかもしれないと思いつつも、大上段に振りかぶりすぎると、むしろ逆に思いは伝わらなくなる。一国民としてそんなこともちょっと心配になる。さりげなく世界中に自らの思いを、簡単な言葉で伝えるインドのモディ首相を見習え、そんなことが言いたくなる。

先週の16日、インドのモディ首相は上海協力機構の首脳会談が開かれていたウズベキスタンのサマルカンドでプーチンとの首脳会談を行った。この会談でモディ首相は冒頭プーチンに対して「今は戦争の時ではない」と嗜めたのである。ロイターによるとプーチンはこの発言に対し「口をすぼめ、モディ氏に視線を向けた後下を向いた」。そして「ウクライナ紛争に関するインドの立場や懸念は理解している」と述べた上で、「われわれは可能な限り早期の停戦に向け全力を尽くしている」と言明したという。そしてこのあとの発言がプーチンの人格を象徴している。曰く「ウクライナが交渉を拒否した」、責任は全てウクライナにあると逃げを打ったのだ。そんなことはこの際どうでもいい。モディ首相のこの一言が、正義も大義もない戦争を始めたプーチンをものの見事に断罪している。前日に行われた中ロ首脳会談での習近平主席の曖昧模糊とした批判に比べ、プーチンが受けた打撃は何十倍も大きいだろう。

今はどんな時か。過去に例を見ない勢力に発達した台風14号を見るまでもない。異常気象が地球を覆っている。脱炭素に向けて世界中が協力して地球を守るべき時だ。新型コロナウイルスのパンデミックが人類に襲いかかっている。ワクチン開発をはじめ新型コロナから人類を守るために各国が協力しして対策を講じる時でもある。2050年の脱炭素実現に向けて世界中が拙いながらも一歩を踏み出そうとしている。そんな今が「戦争の時ではない」ことは子供でも知っている。国連の報告書によれば直近の飢餓人口は最大8億2800万人に達したという。アフリカを中心に食糧危機がヒタヒタと押し寄せてきている。「今は戦争の時ではない」ことは明らかだ。プーチンと対面してその事実を突きつけたモディ首相の胆力に敬意を表すると同時に、そんなことすら眼中にないプーチンという権力者のなんと惨めなことか。