[東京 11日 ロイター] – 日本総研の翁百合理事長は11日、ロイターとのインタビューで、10年間にわたる日銀の大規模緩和は副作用が大きいとして、政府・日銀が結んだ政策協定(アコード)を見直し、2%の物価目標などを柔軟化すべきとの認識を示した。自身が政府の有識者委員も務める防衛力の増強については、財源として幅広い税目の活用を提言した。
<物価目標、金科玉条とすべきでない>
安倍晋三政権発足直後の2013年2月に政府と日銀が取り交わしたアコードには、2%のインフレ目標と成長戦略、財政健全化の3つの方針が盛り込まれた。
翁理事長は内容自体を評価しつつも、「政府側の構造改革の取り組みが不十分だったため、生産性が上がらず賃上げが進んでいないのが問題」と指摘。結果として「ほぼ10年にわたる日銀の大規模な金融緩和の副作用として、日銀が国債を大量に購入することにより、財政規律が失われた」と語った。
翁氏はアコードを見直す必要性に言及した上で、2%の物価目標は「日本の潜在成長率に照らし合わせて在り方を考えていく必要がある」とし、「長期的に達成する緩やかな目標として、達成しないと金融政策を変えられないようなような金科玉条とすべきでない」と述べた。
<マイナス金利とYCC、同時に見直しを>
日銀が2%の物価上昇を目指して続けているマイナス金利と長短金利操作(イールドカーブコントロール)については、同時に見直すのが望ましいとし、「金融政策の副作用がある部分は少しずつ解消していくべきだ。金利は低いまま安定的に推移するだろうし、させる必要がある。だが今のような高い副作用がある政策については、できるだけうまい形で、タイミングをみつつ見直していかないといけない」と強調した。
そして「政策のベクトルとしては、長期的に正常化していくことが望ましい。金利の低位安定がしばらく続くだろうが、緊急事態的な措置であるマイナス金利やYCCはいずれ見直す必要がある」と語った。「ただ10年金利ターゲットの外し方は難しい。アナウンスしただけで金利が跳ねるリスクがあり金融システムに影響が出かねない」と指摘。「黒田総裁の任期中には難しい」とし、次期日銀総裁の手腕に期待を示した。
<防衛財源、法人税・たばこ税・所得税など広く薄く>
翁氏は政府が年末に改定する防衛3文書をめぐって設置した有識者会議のメンバーでもある。防衛力の増強については「実現可能性のある防衛費を、規模ありきではなく、内容のあるかたちで積み上げるのが重要」との考えを示した。その上で「有事には国債が市場で消化できなくなる事態が十分あり得る。インフレで国民生活が痛むリスクがあり、財政基盤と防衛力は切っても切り離せない」と指摘。防衛費は「現役世代でファイナンスする必要がある」とし、安定財源が必要との見解を強調した。
具体的には「法人税、たばこ税、所得税など様々な税目について検討し、広く薄く負担を分かち合うよう検討する必要がある」とし、実質的な増税の時期について「国民の理解を得る必要があるが、個人的にはあまり先延ばしすべきでないと思っている」と述べた。