安倍元首相の銃撃事件をきっかけに社会問題化した世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に関連する被害者救済法案が成立した。この法律によって少しでも被害者が救済されればそれに越したことはない。だが実態は与野党の駆け引きがまるで問題解決につながるかのような、雰囲気というか、誤解を作り出しただけと言った方がいいのではないか。与党も野党も被害者救済を叫びながら、「やったふり」をした。誤解を恐れずに言えば岸田首相は被害者のことより自らの支持率が気になっていたし、野党第1党の立憲民主党はマインドコントロールに「配慮する」とあった当初の文言を、「十分に配慮する」と修正させたことで自らの主張を通したと公言する。テレビ、新聞などメディアを含めて続いた“大論争”も何のことはない、政治家としての自分たちの立場を守るための方策に過ぎなかったのではないか。

朝日新聞の9日朝刊に掲載された元参院議員・俳優、中村敦夫さんの解説がそこをみごとに突いている。朝日新聞に無断で以下全文を引用する。

「安倍元首相が殺害されてからあれだけ大騒ぎした末に、この法案とはお粗末すぎる。旧統一教会は40年ほど前からマインドコントロールを駆使して霊感商法などで収益を得ていた団体なのに、今さら『配慮義務』を求めてどうするのか。『十分に』と加えてもなんの効果もない。

教団が引き起こした問題の深刻さに政治家が正面から向き合っていない。私は信者や元信者と会い、弁護士とやり取りし、それを国会でも追及した。被害者は判断力を奪われ、お金を吸い上げられ、壊れた家庭もある。そうして勢力を広げた教団は選挙支援を通じて政治家に浸透していった。

その実態が安倍元首相はじめ自民党議員中心に広く明らかになったが、追求は徹底されない。『やってる風』を示すため政権はその場しのぎの法案を出し、野党も反対すれば無責任と言われるのを恐れて妥協した。

なぜこうとんちんかんなのか。政治家になって何かを成し遂げるより、政治家であり続けることを優先する議員が多いという恐ろしい現実があるからだ。とにかく次の選挙に勝つことに集中するから、社会問題を起こしている教団に入り込まれ、世論に批判されると適当な立法でしのぐ。今回の法案や国会答弁をみても、自民党総裁である岸田首相がどこまでマインドコントロールの問題や教団の政治への浸透を理解しているか、心もとない。

国会議員の頃は少数派だったが立場が弱いとは思わなかった。社会問題の本質を理解し、解決しようとする人の言葉は強いからだ。そうした政治家が集まって、もう一回やり直しだ」(聞き手 編集委員。藤田直央)