日銀前副総裁の中曽宏氏の発言を昨日ロイターが記事にしている。タイトルは「日銀、今は引き締め方向の行動取りにくいだろう=中曽前副総裁」。中曽氏といえば時期日銀総裁の有力候補。次期日銀総裁の人選が大詰めを迎える時期だ。メディアとして同氏に注目するのはタイムリーでもある。残念なのは記事が短く発言の概要しか掲載されていない点だ。有料サイトならもっと詳しい内容だろうが、無料サイトでは簡単な概要しか掴めない。それでもいくつかの点で注目すべき発言を行なっている。例えば、黒田日銀のインフレ対応。日本はコロナ禍からの回復が他の主要国に比べて遅れているため「この時点で何らかの引き締め方向のアクションは取りにくいのだろう」と述べている。これは総裁に就任しても黒田路線を引き継ぐとの決意表明か。物価目標についても「日銀は賃金上昇を伴う形での達成を目指している」、これも黒田総裁と瓜二つ。黒田路線の変更は難しいということか。

共同通信が数日前、岸田政権が日銀との政策協定見直しに動いているとの記事を配信、市場関係者の間で話題になっている。この協定は2%の物価目標実現に向けて政府と日銀が協力していくことを確認したもの。黒田総裁による異次元緩和の理論的根拠になっている。共同通信に限らず最近のメディアは、来年4月に迫った黒田総裁の任期を意識しながら、金融政策見直しの可能性を模索する記事が目立っている。ロイターが中曽氏を取り上げたのもその一環だろう。この政策協定が締結されたのは2013年だ。もう10年近く前になる。その後の日銀は、実現の見込みのない2%の物価目標を維持している。日銀が有名無実化した目標を頑なに守っている一方で、ウクライナの侵略戦争を契機に世界中でインフレが進行。日本の物価も3%を上回ってきた。世界の中央銀行が軒並み政策金利を引き上げる中で、黒田日銀はゼロ金利維持で世界と渡り合っている。

この状況について中曽氏の発言からは政策変更が必要であるとの認識は感じ取れない。そんな中で同氏は、ロシアのウクライナ侵攻を契機に「世界経済の秩序が変わりつつある」と発言している。その一例としてロシアや中国による米ドル離れや、米国が友好国だけでサプライチェーン(供給網)を完結させようとしている動きに警戒感を示している。ドル離れについては「ドルの基軸通貨としてのドミナンスが簡単に揺らぐことはない」と強調しているものの、供給網については「企業は行動変容を迫られ、効率性よりも安全性の観点からサプライチェーンを二重にするなどの動きが出てくる可能性がある」と警戒感を示している。このほか気候変動対応について「ちょっと時間が掛かりすぎる」と苦言を呈している。次期総裁の有力候補として金融政策ではこれ以上突っ込んだ発言はできないのだろうが、サプライチェーンやカーボンニュートラルなど幅広く目配せしている。メディアは有力候補の情報をもっと発信すべきだ。