日銀は20日、金融政策決定会合でY C C(イールドカーブ・コントロール)で許容している国債の利回り(金利)変動幅を、現行のプラスマイナス0.25%から同0.5%に拡大することを決めた。普通の生活者は興味も関心もないだろう。それが普通だ。日銀自体が国民に説明する努力を怠っているのだから、知らなくてあたりまだ。だが実はこれ、日本人の生活に大きく影響する。そんな大変なことを黒田日銀は昨日、何の前触れもなく突如発表した。これをサプライズという。予測していないことが起これば金融市場に限らず人々は混乱する。なにが起こったのか?ひと言で言えば10年国債の利回りが急騰し、株価が暴落、円相場が急騰したのである。ゼロ金利政策に執着してきた黒田総裁は、世界中で顕在化しているインフレに抗しきれなくなって、異次元緩和の修正に踏み切った。それでも同総裁は「これは金融政策の変更ではない」と強弁している。

黒田総裁は嘘をついたわけではないだろう。決定会合終了後の記者会見は歯切れが悪く、矛盾したことを平気で主張していた。ここまで来るともう「自分の発言が正しいと思い込んでいる」としか言いようがない。まるでプーチンや習近平のような強権的独裁者のようだ。国債の変動幅拡大は「市場機能の改善が目的であり、利上げではない」と説明。発表直後に国債の利回りは0.46%と、2015年以来の水準に上昇した。市場金利が急騰しているのである。これは利上げではないのか。確かに政策金利は0〜0.25%に据え置いたままだ。政策金利に手はつけてはいない。だが、日本の金融政策は欧米諸国と同じように、市場機能の上で成り立っている。政策金利は本来市場の動きを反映して決定されるのが原則だが、異次元緩和は市場機能を抑圧して金利が上昇しないようにしている。これがY C Cだ。そのY C Cの変動幅を拡大したのだから、誰が見ても利上げだろう。

総裁は「市場機能の改善が目的」と主張する。市場機能を抑圧しているのは黒田総裁自身だ。自ら市場の機能を剥奪しておいて、世界の潮流に押し流れそうになると今度は機能改善だと言い出す。これを矛盾と言わずして何というのか。黒田氏が日銀総裁に就任して10年近くなる。デフレ体質の改善に貢献した事実は評価する。だが、総裁任期後半の3分の2は、実績の伴わない主張に固執していたようにしか見えない。そして突然の修正で市場金利が上昇、結果的に日銀は自分が保有している巨額の国債に含み損を抱えることになる。9月末現在日銀が保有する国債の残高は536兆円。含み損は一体どのくらいになるのか。異次元緩和は安倍元首相のもとで政府・日銀が一体となって推進してきたものだ。この政策に一定の評価は認めるものの、政策転換のタイミングを失した責任は主に黒田氏にあるだろう。そして異次元緩和の崩壊が始まった。ここでも政府・日銀は後手を踏んだ。日本の特異な金融政策の正常化にはこれから、痛みを伴う長い年月が必要になるだろう。