岸田政権は22日、GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議を開き、カーボンニュートラル(脱炭素社会の実現)に向けた基本方針をまとめた。新しい基本方針の柱は「原子力発電の積極活用」。原子力について「将来にわたって持続的に活用する」と明記した。東電の福島第一原発の事故以来日本政府は、原発への依存度低減をエネルギー政策の柱に掲げてきた。その原発を積極活用する。政策の大転換である。プーチンによるウクライナ侵攻を契機に原油価格が急騰。西側諸国がロシア産原油の輸入をストップしたこともあって供給不足が顕在化するという事態を招いている。こうした中でエネルギー資源の乏しい日本は電力の安定供給に不安が生じている。加えてカーボンニュートラルの実現に向けた脱炭素社会への移行という課題にも直面している。「日本としては原子力発電に頼らざるを得ない」、岸田総理が原子力発電の活用を決断した背景をひとことで言えば、こういうことだろう。

個人的には「致し方ない」と思っている。想像するに大半の国民が同じような思いを抱いているのではないだろうか。原発活用に合理的な根拠があるかと問われれば、自信を持って「ある」と答えるほどの自信はない。強いてあげればCO2を排出しない原発は、カーボンニュートラルを目指す上で不可欠なエネルギー源、ということぐらいだ。民意に敏感なメディアは岸田総理の決断をどう捉えているのだろうか、気になって調べてみた。まずは原発批判の急先鋒ともいうべき朝日新聞。一面トップの「視点」で「『電力危機』に乗じた『原発回帰』は疑問だ」と、反対のニュアンスを示している。この記事は署名記事。これが同紙の社論かどうかわからない。だが、社説を見ると「熟議なき『復権』認められぬ」と原発政策の転換に真っ向から異議を唱えている。想定通りというか、予想通りの論調だ。他の新聞はどうか。残念ながら手元に他紙がない。仕方ないからネットで検索してみた。

「『原発回帰を許せるはずがない』福島の事故被災者 国民の声聞かず方針転換した政府にこらえきれない怒り」、東京新聞の見出しだ。被災者の声を前面に出しているものの、これが同社の社論だろう。時事通信は「原発活用、課題山積 『見切り発車』の政策転換」、賛否に触れないまま平凡な見出し。テレ朝は「『過信してはだめ』運転期間“60年超”で安全性は?原発政策“転換”の背景」、中身を見ると政策転換への不安が柱。見ようによっては原発支持ともとれる内容だ。ちょっと古いが日経新聞は7日付で、「現政権、『政策転換』には値せず 原発政策の行方」と題した投稿を経済教室面に掲載している。エネルギー問題の専門家である橘川武郎・国際大学副学長の政策転換先読み原稿ともいうべきもの。ひとことで言えば「政策転換に内実がない」と切り捨てている。政策転換の柱となる新型原子炉の建設、手を挙げる業者がいない。使用済み核燃料の処理場も決まらない。政策転換はいつもの“口先パフォーマンス”に終わらないか、こちらの方が心配だ。