[東京 13日 ロイター] – 日銀のイールドカーブ・コントロール(YCC)政策が軋んでいる。追加政策修正の思惑から円債売りが止まらず、新発10年国債の金利は13日、一時0.545%と日銀許容変動幅の「上限」を超えた。日銀は国債買い入れオペを総動員させて対抗しているが、来週17─18日会合でのYCC撤廃予想も市場では出ている。
<日銀アタックのトレードか>
日銀は現在、連続指し値オペによって10年国債の特定銘柄を毎日0.50%で無制限に買っている。日銀が買う値段よりも安く市場で売る(金利が高ければ価格は安くなる)というのは通常考えにくいが、13日は0.545%まで金利が上昇した。
足元で円金利が急上昇する中、保有国債が含み損状態になっている投資家も多いとみられ、「何らかの理由により、損得を度外視してでもどうしても国債をきょう売らなくてはいけない市場参加者がいたのではないか」(外資系投信)との見方が出ている。
一方、「日銀アタック」をねらった投機的なトレードとの観測もある。10年以外の年限の国債を売っておく一方、10年債の「上限」を超えた水準で取引を成立させることができれば、日銀の政策修正観測は強まり、10年以外の金利は一段と上昇。トータルで収益をあげることができる。
昨年12月20日、日銀は長期金利の変動許容幅をそれまでのプラスマイナス0.25%から0.50%に拡大させたが、それから約3週間半での上限突破。マーケットによる日銀政策修正観測はさらに過熱しており、投機的な円債売りが断続的に出ている。
長期金利の許容変動幅が0.25%であった当時も「上限」を超える場面があった。その際は海外金利の低下に伴い「日銀アタック」は次第に沈静化した。しかし、今回は12月米消費者物価指数(CPI)発表を受けて米金利が低下したにもかかわらず、円債売りは止まらず、政策修正観測の根強さを示している。
<新総裁前に撤廃との予想>
シティグループ証券のチーフエコノミスト、村嶋帰一氏は17─18日の日銀会合でYCCが撤廃されると予想している。イールドカーブは変動幅拡大後さらに歪んでおり、再びレンジを拡大させても是正することは期待にしにくいという。「新しい日銀総裁が就任する前に撤廃してしまったほうがダメージは小さい」と話す。
黒田東彦日銀総裁の任期4月8日まで、日銀金融政策決定会合の予定は1月を過ぎると、3月9─10日を残すのみ。3月には新総裁の人事も固まっている可能性が大きく、その中で、金融政策のフレームワークを大きく変えるのは難しいという読みもある。
長短金利操作付き量的・質的金融緩和策の柱であるYCCは2016年9月に導入された。短期の政策金利と10年金利の2点を固定することで、経済活動に影響が大きい中長期金利を抑える一方、超長期金利を上昇させやすくさせることで、生保や年金などの資産運用を助けるという目的があった。
さらに、YCC導入の隠れた目的とみられているのが、国債の買い入れを抑えることだった。「80兆円」のめどは残したが、目標を金利に変えたことで、目標達成に応じた量の国債買い入れを実施すればよくなった。しかし現在、日銀はYCC維持のために大量の国債を買わなければならなくなっている。
<国債大量購入に懸念>
市場では、日銀は12月に政策修正を行ったばかりであり、追加の政策修正を行うには時間が短すぎるとの指摘もある。「YCC解除に向けた準備を金融機関が十分終えているとは考えにくい」(国内証券)という。
だが、このままYCCを維持しようとすれば、日銀は大量の国債を買い続けなければならなくなるおそれもある。日銀の昨年9月末の国庫短期証券を除く国債・財投債の保有比率が初めて50%を超えたが、13日に実施した指し値オペの落札額が2兆8084億円と過去最大となるなど大量購入が続いている。
日銀は利付国債の入札日には国債買い入れオペを行わないのが通例だった。財政ファイナンス懸念を抱かせない効果をねらっているとみられている。しかし、金利上昇が止まらない中、日銀は11日の30年債入札の午後に臨時で超長期債の買い入れオペを行ったほか、5年債入札があった13日も、中期債の臨時国債買い入れオペを実施した。
日銀の国債買い入れは一度、市場を仲介しており、直接的な国債引き受けとは異なるものの、市場参加者は日銀が買ってくれることを前提に売買するようになってきている。
「日銀のバランスシートが拡大し続ければ、日銀は政府の負債を流動化させているとして、財政ファイナンス懸念を問題視する声は強まるだろう」と、パインブリッジ・インベストメンツの債券運用部長、松川忠氏は指摘する。
円という通貨の信認にもかかわってくる問題であり、悪い円安が発生しないような対応が日銀と政府に求められている。
(編集:石田仁志)