表題は笹原和俊氏の本のタイトルをそのまま借用させてもらったもの。氏の専門は計算社会科学。学際を超えてビックデータを研究する学問と考えればいいか。市立図書館で借りてきた。発行日は2018年12月10日とちょっと古い。探していた本が見当たらず、図書館内をぶらぶら散策しながタイトルに惹かれ、なにげなく借りてきた。サブタイトルには「拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ」とある。「読んでよ」と誘われているような副題だ。トランプ大統領の登場でフェイクニュースは一躍時の話題になった。プーチンのウクライナ侵攻では、プロパガンダが毎日のようにメディアを賑わしている。それを「科学する」という。読まずにはいられなくなる。第5章プラス終章構成で、フェイクニュースに関する様々な視点が論じられている。特に面白かたのは第2章、「見たいものだけを見る私たち」と題してさまざまな認知バイアスが紹介されている。

「人はなぜ、インタネット上の真偽不明の情報を簡単に信じてしまうのでしょうか。そこには、嘘やデマを信じがちな私たちの思考や判断の『癖』が関係している」という。この癖を「認知バイアス(Cognitive Bias)」という。「認知バイアスは人類進化の過程で獲得されたものだと考えられていて、たいていの場合はうまく機能し、脳の情報処理の負担を軽減するのに役立ちます」とある。だがこの機能、時々誤作動する。これがフェイクニュース拡散の原因になっているようだ。バイアスには200以上の種類があるようだ。例えば「確証バイアス」。「自分の意見や価値観に一致する情報ばかりを集め、それらに反する情報を無視する傾向、簡単にいえば見たいものを見て、信じたいものを信じる」という癖だ。「認知不協和」というバイアスは「自分の信念に反する情報に出会うと不快感を思える」のだという。

ニュースの拡散を調べた実験結果も紹介されている。それによると真実を伝えるニュースよりフェイクニュースの方がよく読まれ、「誤情報は事実よりも遠く、深く、速く、幅広く拡散する」のだそうだ。確かに真実よりもフェイクニュースの方が面白い。五万とあるニュースの中で面白いと感じるニュースはすべからくフェイクと考えた方がいいのかもしれない。「科学」の中身を全て紹介できないのが残念だが、フェイクニュースの拡散に人間の認知バイアスが関わっているという事実は興味深い。ここで紹介されているのは出来上がったニュースが対象だが、個人的にはニュースを生産する記者や報道機関も「認知バイアス」の影響を受けている気がする。フェイクニュースは政治がらみのニュースに多いようだが、例えば米国の場合は民主党を信じるか共和党を信じるかで、事実や真実の扱いが変わってしまう。笹原氏には、記事を書く記者と認知バイアスの関係を「科学」してほしいものだ。