プーチンが一方的にウクライナに侵攻してほぼ1年。きのう議会で行った年次教書演説でプーチンは、「西側諸国が紛争をロシアとの世界的な対立に発展させようとしている」とロシア国民に語りかけた。戦争の責任は西側にある。まるでロシアは犠牲者だと言わんばかりだ。さらに「われわれは、この問題を平和的に解決するため可能なあらゆることをして、この困難な紛争から抜け出す平和的な方法を交渉していたが、背後では非常に異なるシナリオが準備されていた」と主張する。「この紛争を始めたのは西側だ」、1年前に主張した“特別軍事作戦”はなんだったのか。「米国を筆頭に西側諸国は世界において『無限の力』を求めている」。まるで米国とNATOが罪のないロシアを滅ぼうそうとしていると言わんばかりだ。「われわれは、このように理解しており、それに基づいて対応する」と強調した上で、「直面する課題を慎重に、一貫して解決していく」と訴えた。

いまさら何を言うかという気もするが、西側と対峙してきたこれが彼の認識だから仕方ない。たまにはその言い分にじっくりと耳を傾けるのも悪くはないだろう。「ウクライナ人は、事実上この国を政治的・軍事的・経済的に占拠しているキーウの体制と西側の大領主の人質になっている」、プーチンの不満はつきない。それでも「ロシアを打ち負かすことは不可能だ。社会を分断しようとする西側の試みにロシアが屈することはない」。まるでロシアは正当なことをやっている、強いから負けることはない。心の中に宿っている不安を打ち消すかのように、自分自身を鼓舞するかのように、議員や国民に語りかける。不安はロシアの将来だけではない。パーキンソン病をはじめ様々な病魔に蝕まれているとされる、自身の体の異変に対する不安も頭から離れないのだろう。心身ともに健全ではないプーチンが頼るのは“強がる”ことぐらいか。「ロシアを打ち負かすのは不可能だ」、強がれば強がるほど弱々しく見えてくる。

これに対して電撃的にキーウを訪問したバイデンは、ポーランドに戻って演説した。「1年前、世界はキーウの陥落に備えていた」、「(そのキーウは現在)力強く、誇り高く、そして最も重要なことは自由の国として存在していることだ」と胸をはる。「ロシアが侵攻したとき、試練を受けたのはウクライナだけではない。全世界が長く記憶に残る試練に直面した」、はじめてウクライナを訪問した晴々しさもあったのだろう。高ぶることも、自慢することもなく、冷静に事態を見つめる。ウクライナ戦争はプーチンとバイデンという2人のリーダーが凌ぎ合う戦争でもある。昨日の演説の勝敗は明らかだ。はっきりしないのは現実の戦争。いつ、誰が、どのようにこの戦争を終わらせるのか。可能性があるのはプーチンただ一人。それがダメならロシア国民に期待するしかない。それでもダメなら、その先どうする。まさに「全世界が長く記憶に残る試練に直面」している。