今朝目を引いたのはロイターが配信した次の記事。「アングル:中国株、アリババ再編契機に外国人投資が再開」。アリババは中国最大のEコマース企業。3月28日に同社の全事業を6分割すると発表した。この発表の前日、同社の創業者であるジャック・マー(馬雲)氏が帰国したと報じられた。マー氏はアリババの創業者であり、傘下の金融グループ・アント株式のニューヨーク上場目前に、習近平主席がこれにストップをかけたという経緯がある。これを機にマー氏はアント・グループの経営から手を引き、中国を離れたと伝えられていた。当時「共同富裕」を掲げて民間企業の締め付けに力を入れていた習氏は、急成長する企業の象徴であるマー氏を遠ざけることによって、自らの独裁権力の維持強化と経済政策の左傾化に乗り出していた。こうした経緯を経て中国のデジタル関連企業の株価は軒並み急落した。

トップ企業の株価が急落すれば中国の株式市場も活気を失う。米中の対立激化という要因も手伝って、中国に対する海外からの投資は急速に縮小していた。その外国人投資がアリババの事業分割を機に復活しつつあるというのがロイターの指摘である。アリババの事業分割がどうして外国人の投資再開につながるのか。ロイターは「中国の指導部が企業寄りの姿勢に転換しつつあることを示す最新の兆候と受け止められたからだ」と分析する。新しく首相に就任した李強氏は、ゼロコロナ政策で傷ついた中国経済の再興に向けて、マー氏に帰国を要請していたといわれる。首相就任前の昨年12月、ゼロコロナ政策の撤廃を習主席に迫ったのも李氏だ。躊躇する主席を説き伏せゼロコロナ政策の廃止に踏み切った。その李首相が指導力を発揮して、今度はアリババをはじめデジタル企業の復活に踏み切ろうとしている。これが海外投資家の“読み”というわけだ。

米中の対立を背景にロシアに接近しつつある習近平氏の中国。経済的にも半導体関連の最先端設備の輸出禁止など対中包囲網が形成されつつある。原油や天然ガスのロシア依存度が強まる中で、西側諸国との関係は希薄化しつつあるように見える。そんな中国に対して外国人投資家の投資が復活しつつあるというのだ。政治的にもマクロン大統領が今週訪中する。それを前にバイデン大統領と電話会談を行い、「ウクライナでの戦争終結加速に向けて中国の関与を求めることで一致した」とフランス政府が発表している。西側寄りというべきマー氏の帰国と中国への投資の再開、米仏が求める中国の関与拡大、なんとなく中国をめぐって水面下で何かが蠢きはじめているような気がする。そういえば、中国が仲介したイランとサウジの国交回復は、その後も順調に拡大している。中国はすでに12項目からなる「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」を発表している。ここにも中国が絡んでくるのか。水面下では意外な動きが模索されているのかもしれない。ふと、そんな気がした。