G7広島サミットが終了した。戦争当事者であるゼレンスキー大統領が対面で参加したという点では、歴史に残る画期的なサミットだった。インドのモディ首相とゼレンスキー大統領の会談が実現した点も印象に残る。対面参加が実現して両首脳が広島で握手を交わした。プーチンはどんな思いでこの場面を見つめたのか。想像するにおそらく心中に大きな嵐が渦巻いたことだろう。対面参加実現に向けて難しい交渉を乗り切った担当者の功績は大きい。グローバルサウスとの関係ではインドとブラジルの首脳を招待した点も評価できる。韓国とは1カ月の間に3回目の首脳会談が実現した。日韓の関係改善は首脳間レベルでは想像をこえるスピードで進展している。G7と招待国の首脳が揃って原爆資料館を視察した意味も大きい。今回のサミットは岸田氏の長期政権化の一里塚として記録に残るだろう。だが、当面の最大の課題であるウクライナ戦争に関しては、長期化に加担したサミットだった。

広島サミットの焦点は3つあった。ウクライナ戦争への関与とロシア、中国に対して西側陣営の結束を見せつけることだ。ゼレンスキー大統領の対面参加はその意味では極めて効果的だった。モディ首相との握手は、インドを頼りにするプーチンに対する牽制という意味で効果は絶大だった。同時に両首脳の握手は、インドのしたたかさをみせつける瞬間でもあった。インドにはモディ氏を招待した岸田首相の思惑をこえた“意図”があった気がする。この会談を契機にインドが軸足を西側に移すようなことがあれば、広島サミットはその時点で画期的な転換点として歴史にその名が刻まれるだろう。だが、現時点ではなんともいえない。戦争への関与という点では、F 16戦闘機の供与が決まった。米国は当面パイロットの訓練にとどまるが、いずれにしてもウクライナ側が渇望していた戦闘機の供与で、戦争のステージはもうひとつ格上げされる。戦争の長期化は避けられないだろう。

ウクライナが敗北すれは戦争が終わると言いたいわけではない。人命を犠牲にした大義なき戦争を終結させる“知恵”が、今回のサミットでは何一つ見当たらないのだ。被爆地・広島。時事通信によると「米国では今も、日本への原爆投下を『戦争を終わらせるために必要だった』と肯定する見方が多い」という。原爆を正当化するつもりは毛頭ない。戦争を終わらせようとした狗肉の策だった、ということだろう。戦争を終わらせる手段として、核に変わるものは何か?今回のサミットはこの点で画竜点睛を欠いている。プーチンのウクライナ消滅作戦を容認することはできない。経済制裁やF16の供与で戦争が終わるとも思えない。軍事支援は逆に戦争を拡大させる危険性もある。戦争のエスカレートを躊躇していた米国。F 16の供与容認で米国は、戦争終結を戦争に委ねたのか?広島サミットで問われたのは、核なき戦争終結の道でもある。そこで問われるのは平和国家・日本の役割、その知恵がどこにもみあたらない。