[ソウル 22日 ロイター] – 中国当局は21日、米半導体大手マイクロン・テクノロジーの製品について、重要インフラ事業者が調達することを禁止すると発表した。これにより、米中対立激化に伴って世界の半導体産業が直面しつつあるリスクが、改めてはっきりと示された形だ。中国の措置は、重要技術を中国が利用するのを制限する取り組みを進めている米政府への報復だ、との見方が大勢。

米国は過去1年余りにわたり、先進的な半導体や半導体製造装置が中国の軍事能力強化に利用されるのを阻止するため、これらの製品を対象とした一連の対中輸出規制を導入。同盟諸国にも中国向け半導体製造装置輸出規制に同調するよう働きかけている。

こうした中で、フラッシュメモリーの「DRAM」と「NAND」を製造するマイクロンが、米半導体メーカーとして中国側の最初の標的になった。

当面の話で言えば、マイクロン製品の調達禁止で主な競争相手である韓国のサムスン電子とSKハイニックスが得をする可能性がある。

ただ、アナリストによると、地政学的緊張の高まりは半導体業界全体に影を落としている。企業は投資やサプライチェーン(供給網)管理に支障が生じかねないさまざまな不確実性の増大への対応を迫られるからだ。

メリッツ・セキュリティーズ(ソウル)のアナリスト、キム・スンウ氏は、米中が互いに対抗的な政策を打ち出せば、全ての半導体メーカーにとって投資が難しくなると指摘。「各社は、生産と販売の両面で対処しなければならない。生産と販売が同じ場所で行われる方が望ましいが、このような事態が両者を分断し続けるだろう」と述べた。

中国の調達禁止措置発表の数日前、マイクロンは日本で最大5000億円(37億ドル)を投じてEUV(極端紫外線)露光装置を使った次世代DRAMを製造する計画を明らかにしている。

日本は国内半導体セクターの再生を必死で進めているところで、米国は中国の半導体に対抗して先進技術を開発するために同盟諸国に協力を促しており、両国の思惑が一致した動きと言える。

一方、マイクロンは昨年度、中国本土での半導体売上高が全収入の約11%を占めた。今回の中国の措置が対日投資に影響を及ぼすのかというロイターからの質問にはコメントしなかったが、中国当局と引き続き協議していく姿勢だと説明した。

韓国半導体産業協会(KSIA)のバイスプレジデント、チャンガン・リー氏は「半導体メーカーとしては先を見込んだ膨大な投資が必要で、これらの投資の元を取るには5年から10年はかかる。だから予測可能性が揺らぐ状況になれば、投資は困難になる。長い目で見れば、これは誰のためにもならない」と解説した。

<板挟み>

半導体製造工場のコストは、供給能力や半導体の種類、どの国で操業するかによって大きく変わってくる。ただ、最も資本集約的な製造業セクターなのは確かで、クリーンルーム建設や高度な製造装置の購入が欠かせない。

例えば、サムスン電子の場合、国内のピョンテク市にある2つの工場建設に費やした総額は約60兆ウォン(454億ドル)に上った。

世界1位と2位のメモリーチップメーカーであるサムスン電子とSKハイニックスは、中国における製造工場建設には数十億ドルを投じ、米国からはエッチング装置などの機器を輸入している。

米政府が昨年10月、中国向け半導体製造装置の輸出規制を発表した際には、サムスン電子とSKハイニックスに対してライセンス申請なしで輸入できる1年間の猶予期間を与えたが、この期間が今後延長されるかどうかは不透明だ。

メリッツのキム氏は「固定費と賃金を考慮した上で最も効率的な生産拠点を立ち上げるのが好ましいとはいえ、これに規制と呼ぶ非常に大きな変動要素が加わって、事情がより複雑化している」と話す。

複数のアナリストは米中対立を「既定値」として受け入れるよう提言しており、地政学的緊張がさらに高まれば、それに対応したメモリーチップ輸入の迂回路が出現してくるかもしれない。

英紙フィナンシャル・タイムズ紙が4月に伝えたところでは、ホワイトハウスは韓国政府に対して、マイクロン製品の販売が中国で規制されたとしても、韓国メーカーが中国市場でその分の穴埋めに動かないようくぎを刺している。

メリッツのキム氏は「(韓国半導体メーカーは)板挟みになってあらゆる方面から悩みの種が舞い込んでいる」と述べた。

BNKインベストメント・アンド・セキュリティーズのアナリスト、リー・ミンヒ氏は「米中の覇権争いは世界に定着している。今は半導体、その次はレアアースやさまざまな原材料で展開され、続いていくだろう」とみている。

(Joyce Lee記者)

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▽中国のマイクロンに対する措置、「事実に基づいてない」=米政府<ロイター日本語版>2023年5月24日7:52 午前