米下院で債務上限を2年間凍結する法案が可決された。市場を覆っていた懸念材料が解消に向かった途端、日本の株価が下落に転じた。ウクライナ戦争をめぐって様々な情報が飛び交っている。モスクワ上空にドローンが大量に飛来してプーチンの住居がある高級住宅街が狙われた。ゼレンスキー大統領は「決断は下された」と反転攻勢が近いことを明らかにした。北朝鮮はロケットと称するミサイルの発射実験を行ったが、2段目のエンジンに点火できず海上に墜落した。相変わらず世界中で大ニュースが飛び交っている。そんな中で今朝個人的に注目したのは、ロイターが昨夜遅く配信した次のニュースだ。タイトルは「金利環境、新しい『常態』に移行した可能性否定できず=日銀総裁」。デフレが常態化していた日本経済の金利環境に変化が生じ、インフレ期待が「常態化」しつつあるというのだ。大ニュースだ。

植田総裁は31日、日銀・金融研究所が主催する「国際コンファランス」の開会にあたってあいさつした。その中でインフレ動向や経済環境の変化に言及、「新型コロナウイルス感染症への対応で公的部門・民間部門で負債水準が高まっていることや、地政学リスクが強まっていることにより『既にlow for long(長期的な低金利環境)とは異なる新しい常態に移行しているという可能性も一概に否定することは難しいように思う』と述べた」というのだ。黒田総裁のもとで10年間続いたゼロ金利政策の最大のバックボーンは、低金利の常態化だった。デフレ体質が染み込んだ日本経済を再生させるためには、ゼロ金利(一部マイナス金利)を長期間に粘り強く推進することが、最大の政策目標でもあった。いわゆる異次元緩和である。黒田氏は世界中でインフレが巻き起こっても、この主張を修正しようとしなかった。

後を継いだ植田総裁も異次元緩和の継続を折りに触れて表明してきた。だが、植田新総裁の論調には、黒田前総裁ほどの“頑なさ”は感じられなかった。学者ならではのバランス感覚というべきか。個人的には内心、異次元緩和の修正を目指しているのだろうと、一方的に解釈してきた。きのうのあいさつも「可能性も一概に否定することは難しい」と慎重な言い回しで、金利環境の変化の可能性に言及したに過ぎない。とはいえ、日銀総裁が可能性に言及すること自体が大きな変化だ。トップが可能性に言及すれば部下は事実確認に動く。黒田前総裁時代には金融政策修正の可能性を探ること自体、“タブー視”するような雰囲気があった。トップが可能性を認識し、部下が自由に議論する。そうなれば金融政策は自ずと、本来あるべきところに収れんされていくような気がする。黒田時代は実体経済と金融政策のあいだにミスマッチがあったのではないか。暴論かもしれないが、金利を上げれば日本経済は良くなる気がするのだ。