[ロンドン 16日 ロイター] – 暗号資産(仮想通貨)投資家が、取引のリスク管理対応に奔走している。昨年、仮想通貨レンディングのセルシウス・ネットワークやボイジャー、デジタル、仮想通貨交換所大手FTXなど業界企業が相次いで突然破綻したため大やけどを負ったことや、残っている業者に対する規制当局の締め付けが一段と強まるとの懸念が背景にある。 

一連の破綻を受け、身動きが取れなくなった顧客資産は現在約340億ドルに上るとされる。

そこで機関投資家は自らの身を守るため、資産保護拡充をうたっている交換所に取引先を切り替えたり、取引相手の精査を強化したり、取引額を細分化したりといった手段を講じているところだ。ロイターが取材した業界幹部や入手したデータで明らかになった。

ロンドンに拠点を置くヘッジファンド、アトランタ・ウエルスのデジタル資産ポートフォリオマネジャー、サメド・ブアイナヤ氏は「この資産クラスの投資家は高い授業料を払って幾つかの教訓を学び、今は取引相手について以前よりもはるかに選別的になりつつある」と指摘した。

直近では、バイナンスUSとコインベース・グローバルといった大手交換所が米証券取引委員会(SEC)から連邦証券法違反で訴えられたが、複数の業界幹部はこうした当局の措置はさらに増えてくるだろうと身構えている。

アトランタ・ウエルスの場合、優先的に取引する相手は英コッパーや米ファイアブロックスなど、外部での清算とカストディアンに資産を預けるサービスを提供している交換所だ。ブアイナヤ氏は、バイナンスはこのような選択肢を与えてくれなかったので、オーバーナイトで資産を残すことは滅多にないと説明した。

同じくロンドンが拠点のニッケル・デジタル・アセット・マネジメントのアナトリー・クラシロフ最高経営責任者(CEO)は、現時点ではほぼ全ての取引を外部決済と外部での保管が可能な交換所で行っていると明かす。FTX破綻前は、その比率はわずか5%だった。

ファイアブロックスのマネジングディレクター、スティーブン・リチャードソン氏は「交換所経由の取引が引き続き可能でありながら、同時に資産を守ることができるモデルを探している企業の売買が著しく増加している」と述べた。

コッパーは、交換所外での決済需要が跳ね上がっていると明かした。

<萎縮する市場参加者>

仮想通貨市場は低金利局面で投資家の資金が殺到し、2021年には時価総額が3兆ドルまで膨らんだ。しかし金利上昇とともに慎重ムードが広がり、価格は急落して幾つかの業者は流動性がひっ迫。コインゲッコーのデータに基づくと、仮想通貨の時価総額は足元で約1兆1000億ドルまで目減りしている。

こうした中で欧州の暗号資産運用会社コインシェアーズは、FTX破綻で2600万ポンド(3265万ドル)の損失を被ったことを踏まえ、取引相手の財務や事業に関する状況の調査を徹底化するようになった。現在は取引相手に、事業内容やサイバーセキュリティーの態勢、さまざまな暗号資産向けエクスポージャーの内容などを質問している、とジャン・マリー・モグネッティCEOは述べた。

モグネッティ氏によると、以前は「赤、黄色、緑」と3段階に区分していた取引場所の安全度については非常に分かりやすい「赤、緑」の2段階に簡素化したという。

バイナンスUSを巡ってはSECの提訴でその将来性に疑念が出てきたが、取引を完全に避けることはできない、というのがトレーダーの見方だ。実際カイコのデータによると、世界の暗号資産取引においてバイナンスUSのシェアは60%前後に達している。

ニッケルのクラシロフ氏は「これはわれわれ全員が暗号資産取引で背負っている不可避的なリスクだ。つまりそれは、バイナンスと呼ぶ1つの巨大な交換所へ(取引が)集中するという不快なリスクだ」と述べた。

米国を拠点とする暗号資産投資会社アクラのトレーディング・オペレーション担当ディレクター、ウェス・ハンセン氏は、最もリスクの高い交換所との取引に際してアクラは、大口取引を幾つもの小口取引に切り分け、エクスポージャーを最小化しようとしていると説明した。

さらにハンセン氏は、取引相手への情報提供要請は「これまでよりはるかに広範囲かつ頻度も高い」し、アクラはどの業者が問題になりそうかを調べる上でツイッターも監視していると強調。「今は暗号資産市場にいる誰もがとてもおびえている」と打ち明けた。

(Elizabeth Howcroft記者)