[香港 12日 ロイター] – 世界中で繰り広げられている生成人工知能(AI)開発競争に、中国も参戦している。これまでバイドゥ(百度)やアリババなどがお披露目したAIモデルは80種類近くに上り、関連スタートアップ企業は過去半年間で約140億ドルの資金を集めた。 世界中で繰り広げられている生成AI開発競争に中国も参戦しているが、一般に普及した中国の対話型AIはまだ1つもない。写真は上海で6日に開かれたAI関連のイベントで撮影(2023年 ロイター/Aly Song)

しかし、西側で米オープンAIが手掛けた対話型AIの「チャットGPT」が既に1億人を超える月間ユーザーを獲得し、これらのインプットが常に性能の修正と改善を手助けしているのと異なり、一般に普及した中国の対話型AIはまだ1つもない。

これは中国のハイテク部門が置かれている新たな現実を物語っており、中国政府が何年も続けてきた統制強化の取り組みが影を落としている。

かつて中国のハイテク部門、特に消費者向けのインターネット業界は「生き馬の目を抜く」ような激しい競争を展開していたが、今や各企業は横並びとなり、「お上の指示」を仰ぐ状態になってしまった。

中国企業が従うべきルールは、アルゴリズムの認証からデータの海外移転の際の安全保障上の審査受け入れまで多岐にわたる。

政府としては、急成長してきたハイテク部門から生じた行き過ぎや不正を制御できる態勢が整ったわけだが、それは将来において西側のライバルに対する中国企業の競争力に悪影響を与えかねない、と複数の専門家は警鐘を鳴らしている。

中国の規制当局は先週、国内のプラットフォーム企業が抱えていた問題の大半は修正されたと宣言し、締め付けの終了を示唆したと受け止められた。

ただ、シンガポール経営大学のヘンリー・ガオ教授(法学)は、多くの分野で他国よりも厳しくなっている中国の規制環境は、今後も維持されると予想。「近年の中国では私が『予防的規制』と呼ぶものが多くなっている。これらは明らかにイノベーションを妨げ、中国企業のキャッチアップ能力を低下させる」と述べた。

<まだ試験段階>

特にチャットGPTの成功で世界的な関心が一気に高まり、中国企業が急いでキャッチアップに動こうとしている生成AIで、このような逆風がひしひしと感じられる、と複数の業界幹部は話す。

バイドゥの「文心一言」など大々的に公開された幾つかの中国製対話型AIはいずれも、まだ試験段階にとどまり、利用者は限定されている。バイドゥの李彦宏・最高経営責任者(CEO)は5月、文心一言について政府の承認を待っているところだと説明した。

ノムラの中国インターネット株調査責任者ジャンロン・シー氏は「今のところ正式な規制の枠組みが確立されていないため、中国の多くのインターネット企業は、自社の生成AIを開発中でも開発を終えていても、大規模な試験を実行できない」と指摘する。

チャットGPTによれば、より多くのユーザーを獲得することで、チャットGPTのモデルが改良され、俗語やイディオムなどの言語パターンをより適切に考慮し、エラーを検知し、普遍的でないシナリオに対応し、回答例における文化的偏見を少なくすることができる、という。

マーブリッジ・コンサルティングのマネジングディレクター、マーク・ナトキン氏は、中国当局が対話型AIの普及に消極的なのは、検閲されていない対話型AIが世論に影響を及ぼし始めて、体制転覆につながるのではないか、と恐れていることが大きいとの見方を示した。

<規則が足かせ>

中国政府は今年4月、生成AIに関する大まかな規制案を打ち出し、企業は正式なローンチ前に安全保障評価を当局に提出する必要があることを示した。

何人かの専門家は、AIモデルの作成物だけでなく学習に使った素材までその真実性や正確性の検証が求められるなど、一部の規則は負担が大きいと批判している。

年内には最終的な規則がまとめられる見通し。政府は、AIを対象とした特別法の制定も準備しているが、まだ、詳細は明らかになっていない。

AIに対する規制は世界中で議論されており、イノベーション促進を図りながら安全性を確保し、著作権を保護するための措置が講じられようとしている。中国がこうした規制の動きで先行しているのは間違いない。

しかし、逆にそれが中国企業の足を引っ張っているとの声が聞かれる。香港に拠点を置くAI企業の共同創業者は「レーシングカーに速度制限を設けるのと同じだ。AI分野で米国が先を走っているのに、中国はルールを増やしてブレーキを踏んでいる」と嘆いた。

<産業用アプリ開発に軸足>

こうした中で今、ほとんどの中国企業のAI開発の重点は、産業用アプリに向けられている。これは中国政府の狙いとも一致し、新たな規制体系が目指す地点でもある。

習近平国家主席は、半導体などの「ハード」技術や産業用AIアプリの開発にもっとエネルギーを注いでほしいと強調しており、それらで突破口が開ければ、確かに中国の西側依存を低下させられるだろう。

ファーウェイ(華為技術)は先週、同社のAI言語モデル「盤古」は主として、貨物列車の安全検査や天候予測といった企業顧客が利用するアプリに役立つとの見解を示した。

バイドゥも先週、文心一言の試験にこれまで15万社余りから申し込みがあり、事務効率改善や顧客サービス、マーケティングなどの領域で300種類を超える試験が行われていると明らかにした。

(Josh Ye記者)