[東京 18日 ロイター] – 日銀は27―28日の金融政策決定会合でまとめる「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)で、2023年度の物価見通しを2%台に引き上げる公算が大きい。日銀内では持続的な賃金上昇への期待感が高まっているが、国内消費の持続性や先行きの海外経済の不確実性への警戒感も強い。市場で憶測が出ているイールドカーブ・コントロール(YCC)の修正が行われるかは不透明だ。 

<24年度以降の2%乗せ、賃金上昇の「確度」が必要>

日銀が掲げる2%の物価目標に対し、生鮮食品を除く消費者物価指数(コアCPI)の前年比伸び率は3%台での推移が継続している。輸入物価高を背景とする価格転嫁が日銀が想定した以上に続いており、23年度のコアCPIの前年度比伸び率は4月展望リポートで示した前年度比プラス1.8%から2%台に上方修正される公算が大きい。

ただ、24年度や25年度の物価見通しも引き上げるかは不透明だ。4月の決定会合時点で今年の春闘の強い結果は見えており、25年度にかけて賃金上昇と物価上昇が緩やかに続く構図はすでに織り込まれている、との見方が日銀では出ている。

4月の展望リポートでは、生鮮食品・エネルギーを除く消費者物価指数(コアコアCPI)の前年度比伸び率は24年度がプラス1.7%、25年度がプラス1.8%と緩やかに拡大していく姿が示された。予測数値が若干変動することはあっても、賃金の持続的な上昇への「確信度」が4月会合時点より高まらない限り、見通しの数値が明確に引き上げられる可能性は低い。

23年度の物価見通しの上方修正幅が大きくなれば、反動で24年度の見通しには下方修正の可能性が出てくる。25年度は政府の物価高対策の影響やその反動がなく、より基調的な物価上昇率を示すものとなるが、2%乗せとなるか不透明だ。

植田総裁は6月28日の欧州中央銀行(ECB)主催のセミナーで、十分な賃金上昇を伴ったインフレ率2%の持続的達成には「まだ幾分の距離がある」と述べた。

決定会合開催まで、21日には6月全国消費者物価指数、会合当日の28日には7月東京都区部消費者物価指数が発表される。日銀は物価高の背景に変化がないか慎重に見極める方針だ。

<足元の金利上昇、市場機能改善の見方変わらず>

日銀内では、マイナス金利の撤廃はイールドカーブの起点の引き上げになることから、現在の経済・物価情勢を踏まえればなお実現までの距離が大きいとの見方が出ている。一方、YCCの修正は効果・副作用の比較により、効果が上回ると判断すれば実施可能とされている。

日銀の動向に詳しい複数の関係筋によると、YCCの修正に関しては日銀内で議論されているが、その時期を含め結論は出ていないという。

日銀の政策修正観測もあって、足元では10年金利が再び0.5%に迫っているが、イールドカーブの形状は引き続きスムーズだとの声が日銀では出ている。6月には大型の起債もあり、ひと頃に比べれば市場機能は改善しているとの声が目立つ。

日本経済新聞などの報道によると、植田和男総裁は16日、インドで開かれた主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議後の記者会見で、自身の市場機能についての認識に関して、4月や6月の金融政策決定会合後の記者会見で話した内容と「大きくは変わっていない」と述べた。

日銀では人手不足感の広がりで持続的な賃金上昇への期待感が高まる一方で、2%物価目標の持続的・安定的な達成になお距離がある中で、YCC修正は時期尚早との声がある。物価高が続く中での国内の消費の持続性や、海外経済の先行き不透明感への警戒感も強い。来年の日本の春闘への影響を見極める上で、秋以降の米国経済の動向を見極める必要があるとの声も出ている。

(和田崇彦 取材協力:木原麗花 編集:石田仁志)