[東京 19日 ロイター] – 日本国債市場で、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール=YCC)の修正を見込んだいわゆる「日銀アタック」トレードが逆回転している。日銀の植田和男総裁の18日の発言がきっかけだが、27─28日の金融政策決定会合までにはまだ1週間ある。今月の会合に向けた日銀アタックがこれで収束するかどうか、市場関係者の見方は揺れている。

19日の金融市場では国債の買い戻しが優勢となり、長期金利の指標となる新発10年債利回りは0.460%に低下した。それまで長期金利には上方圧力がかかり、前日18日には植田総裁の就任以降初めて0.485%に上昇。YCCの許容変動幅の上限0.5%に迫る勢いをみせていた。

流れを変えたのは、日本時間18日夜に訪問先のインドで記者会見した植田総裁の発言。「持続的・安定的な2%のインフレ達成というところにまだ距離がある」と話し、今月の会合でのYCC修正は見送りを示唆したと市場は受け止めた。為替市場では円が一時下落した。

SMBC日興証券の森田長太郎シニアフェローは「普通の解釈ではYCC修正の判断を今回は行わないとの見方になるだろう」と指摘。需給や外部環境を踏まえても「日本国債市場はこのまま本格的な10年0.5%の上限アタックが生じないまま、決定会合に向かう可能性が高くなっているようにみえる」と話す。

もっとも、今月の会合に向けたYCC修正の思惑が一掃されたかといえば、市場のコンセンサスは現時点では定まっていない。

三井住友トラスト・アセットマネジメントの稲留克俊シニアストラテジストは「市場の受け止めとしては、まだ迷いがある」と語る。「7月政策修正の見方が本当に消えたのであれば、10年金利はあっさり0.4%台前半まで低下したはず。だが、新発10年債の売買は取引終了間際まで成立しなかった」と指摘する。

稲留氏は、2021年3月に黒田東彦総裁(当時)が衆院委員会で「(長期金利の)変動幅を拡大する必要があるとは考えていない」と述べた翌営業日に、雨宮正佳副総裁(当時)が「金利はもっと上下に動いてもいい」と発言し、実際に同月の会合で変動幅拡大を決めた経緯に言及。「市場で高まる修正観測を『火消し』する意図が日銀にあるかの判断のため、今後数日間の日銀サイドからの発信を注視すべきだ」との見方を示す。

決定会合まであと1週間。25─26日には米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催され、米金利や為替動向を通じて円金利にも影響を及ぼす可能性がある。国債市場における日銀アタックの波は一旦引いたが、再び押し寄せる可能性があるのかどうか、マーケット参加者の視線が注がれている。

(植竹知子 編集:平田紀之、久保信博)