• 上下リスクに機動的対応、目標達成の確度高まるまでYCC維持
  • YCC運用の柔軟化、中小企業の稼ぐ力向上を確認後が望ましい

日本銀行が7月27、28日に開いた金融政策決定会合では、「2%の持続的・安定的な物価上昇の実現がはっきりと視界に捉えられる状況になっている」との見解が政策委員の1人から示された。「主な意見」を7日に公表した。

  この委員は、金融緩和策からの出口までの間、「円滑に金融緩和を継続していくため、イールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)の弾力化を進めるべきである」とも指摘した。多くの委員が経済・物価の不確実性の高まりを理由にYCC運用の柔軟化の必要性を主張した中で、出口を展望した政策修正を訴えた形だ。

  7月会合では、現行の大規模な金融緩和政策の維持を決める一方、YCCにおける長期金利の変動上限の0.5%を「めど」と位置付け、国債を無制限に買い入れる連続指し値オペの水準を1%に引き上げる柔軟化措置を決めた。事実上の上限拡大だが、植田和男総裁は記者会見で、金融政策の正常化に向けた措置ではないと説明した。

上下リスク

  ある委員は、2%物価目標の持続的・安定的な実現が見通せる状況には至っていないとし、「マイナス金利政策の修正にはなお大きな距離がある」と指摘。物価目標達成の確度が十分に高まるまで、YCCを「柔軟化しつつ維持していく必要がある」と主張する委員もいた。

  一方、1人の委員は中小企業の賃上げモメンタムの向上には、中小企業の「稼ぐ力向上が重要だ」とし、「イールドカーブコントロールの運用の柔軟化はそれを確認した上で行う方が望ましい」と述べた。会合では、YCCの柔軟化に中村豊明審議委員が反対している。

  YCC柔軟化によって、「上下双方向のリスクに機動的に対応し、市場機能等にも配慮しながら、うまく緩和を続ける備えをするべきだ」との声や、物価環境に応じた長期金利上昇をある程度容認することで「実質金利は安定し、一定の緩和効果を維持しながら副作用を抑制できる」との指摘もあった。

  声明と同時に公表された新たな経済・物価情勢の展望(展望リポート)では、2023年度の消費者物価(生鮮食品を除くコアCPI)見通しを前年度比2.5%上昇(従来は1.8%上昇)に大幅に引き上げた。しかし、24、25年度は2%を下回り、日銀は2%物価目標の「持続的・安定的な実現を見通せる状況には至ってない」との判断を示した。  

他の「主な意見」

  • 2%物価目標の持続的・安定的実現には、金融緩和の継続を通じ賃上げモメンタムを支え続けることが必要
  • 必要な期間にわたり円滑な緩和継続へ、混乱なく対応できる間にあらかじめYCCの柔軟性を高めることが望ましい
  • 債券投資を手控える投資家が見られる、緩和的な金融環境は維持しつつ市場機能に配慮した金融政策が適当

関連記事