[オーランド(米フロリダ州) 18日 ロイター] – 今年になって投資家が対応を迫られてきた経済や市場の全ての波乱要素のうち、米国の成長率が中国を上回っている状況ほどの「サプライズ」はなかなか見当たらないだろう。 

1月時点で示された今年のコンセンサスではこのような事態は到底考えられなかった。「ゼロコロナ」政策解除直後だった当時の中国経済はまるで巻かれたバネがはじけるような勢いがあったのに対して、米国は連邦準備理事会(FRB)による過去40年で最も急激な利上げサイクルの下で逼塞し、リセッション(景気後退)に陥るとみなされていたからだ。

ところがその後中国の成長はなかなか加速できない半面、米国経済を語るキーワードは「ソフトランディング」から、巡航速度での成長が続く「ノーランディング」へと見事なほどに切り替わっている。

世界の2大経済の明暗がこれほど分かれるのは異例で、投資家の脳裏にある過去の出来事や経験則、各種モデルが新型コロナウイルスのパンデミックで完全に用をなさなくなったという事実を最も鮮明に思い起こさせてくれるのではないか。

中国の第2・四半期の前期比成長率は0.8%と、第1・四半期の2.2%から減速。米国は第1・四半期が1.6%、第2・四半期が1.2%で絶好調とは言えないまでも、本来もっと高いはずだった中国に対しては互角以上の数字になっている。

アトランタ地区連銀がリアルタイムの成長ペースの指標として算出するGDPナウによると、第3・四半期の米国成長率は年率換算で5.8%と、第1・四半期と第2・四半期の2倍以上に達する。

逆に中国の成長率見通しは暗くなるばかりで、バークレイズのエコノミストチームは第3・四半期と第4・四半期の予想成長率を前期比4.9%から2.8%にそれぞれ引き下げ、今年全体の予想は4.9%から4.5%に下方修正した。

これは中国政府が目標とする5%前後よりかなり低く、年間成長率が目標に届かないと見込む市場関係者は増えている。

中国の向こう数年の潜在成長率は米国のほぼ2倍と推計されているものの、中国の国内総生産(GDP)が米国を追い抜くのは果たしていつになるのか疑念も広がってきた。

ゴールドマン・サックスのアナリストチームは、引き続き2035年がその時期だとみている。しかしアメリカン・エンタープライズ研究所のデズモンド・ラックマン上席研究員は最近ロイターに、少なくともあと20年は、米中GDP逆転は起きないだろうとの見方を示した。

<投資家が懸念する理由>

戦略国際問題研究所(CSIS)のイラリア・マゾッコ上席研究員は、中国には底力があり、経済崩壊説は現実味が非常に乏しいと話す。

とはいえ経済成長率が2桁、あるいは1桁台後半で推移した時代は幕を閉じており、中国が抱える弱さに対する懸念には十分な根拠がある。

マゾッコ氏は「過去10年で中国の台頭と米国の凋落が大いに話題となったのに、今われわれが目にしているのはその反対が論じられている状況だ。われわれの認識では米中の成長率は似たようなものだろうが、それは中国にとって懸念要素になる。なぜなら中国の方が1人当たりGDPはずっと少ないからだ」と述べた。

世界銀行によると、中国の1人当たりGDPは1万2720ドルで、米国(約7万6000ドル)の6分の1程度に過ぎない。

もっとも今の米国に対する楽観と中国に対する悲観は行き過ぎている恐れは否定できない。やがて市場関係者の見通しが修正されるとともに、歴史的な米経済の上振れと中国経済の下振れは揺り戻しに見舞われるだろう。

米国の場合、FRBによる計525ベーシスポイント(bp)もの利上げの全面的な影響が顕現化するのはこれからになるし、世界金融危機前後以来となる高水準の債券利回りが年内に株式市場と実体経済のお金のめぐりを阻害しかねない。

中国では以前にそうだったように、当局が大規模な金融・財政刺激策を打ち出して市場を驚かせ、経済をてこ入れしてもおかしくない。

ただ投資家が今年になって中国から大量に資金を引き揚げたこと、米中の10年国債利回り格差が2007年以降で最大に開いたこと、そして人民元が同じく07年以来の安値に接近したことには、いずれも相応の理由が存在する。

デフレや若者の記録的な高失業率、不動産セクターの危機、歴史的に低調な銀行融資、対外貿易の急激な落ち込みといった問題は、すぐに解決されそうにはない。

シティの新興国市場戦略責任者ディルク・ウィラー氏と同氏のチームは今週、「一連の期待外れのデータを踏まえ、市場は依然として中国(経済)のハードランディングを心配し続ける公算が大きい」と記した。