[ワシントン 21日 ロイター] – 24─26日に開催される米カンザスシティー地区連銀主催の経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)は、グローバル経済の「構造的シフト」がテーマになる

米連邦準備理事会(FRB)は、米国の労働力の予想を上回る伸び、製造業関連の建設急増、世界的なサプライチェーン(供給網)の変化、根強く続く高インフレ、そして生産性向上の兆しなど、流動する経済構造をひもとくために格闘しなければならない。

FRBは2016年、米経済の長期的な潜在成長率見通しを従来の2.5%強から1.8%程度に引き下げた。その後、米経済は予想よりも高い成長率を示したが、潜在成長率は低下したとの見方をFRBが放棄したことはなさそうだ。

現在の経済見通しには、人口の伸び鈍化が織り込まれている。もう1つの成長の原動力である生産性が、向上するかどうかは予想が難しい。

しかし、近年は自然利子率上昇の有無や、人々の行動様式の変化など、大きな経済構造が議論されるようになり、FRB幹部らを驚かせている。

例えば、2016年から19年にかけて、米国の労働力はFRBスタッフが推計する年率0.5%の約2倍の速さで増えた。コロナ禍が収束して労働力が回復した2022年には、このペースが復活している。

ピーターソン国際経済研究所のアダム・ポーゼン所長は、専門家が唱えていたよりも労働力は強く伸びているとし、FRBがこの問題を読み誤ったのは、経済の現状分析に悪影響を及ぼしかねない「大きな失敗」だと指摘した。

<高成長の原因は財政拡大か>

2016年以降、トランプ、バイデン両政権が実施した大きく異なる経済政策が、偶然にも互いに補完的な役割を果たした結果、雇用と経済成長はいずれもFRBの想定を上回り続けた。

トランプ前政権下では法人税の引き下げなどの政策変更が成長率を押し上げ、バイデン政権ではエネルギー・ハイテク関連の一連の政策やインフラ支出計画が製造施設の建設ブームを引き起こした。

また、両政権が実施したコロナ禍対応の景気対策は、今も個人消費と地方政府の支出を支えている。

だが、コンファレンス・ボードの主席エコノミスト、ダナ・ピーターソン氏は、こうした傾向は持続不可能だと見ている。減税と財政支出に引っ張られる形の潜在成長率を超える成長は、経済の基調的なシフトを反映していない上、今後2つのハードルに直面するという。

一つは公的債務の増加、もう一つはFRBの高金利政策だ。

ピーターソン氏は「今後半年から1年の間におそらくリセッション(景気後退)が訪れるだろう。それはFRBの作用によるものだ」とした上で「その後は、今より成長率が低い局面にシフトしていく」と予想した。

<生産性に変化か>

昨年のジャクソンホール会議で、サンフランシスコ地区連銀のエコノミストで生産性専門家のジョン・ファーノルド氏らは、新型コロナウイルスのパンデミックによって、一部の産業のトレンドは再調整されたが、生産性が年率約1.1%の上昇にとどまる基調的な「低い伸びのレジーム」は変化していないとする論文を発表した。

対照的に、1995年から2005年にかけて生産性は年率約2.5%上昇していた。

ただ、生産性は今年第2・四半期には年率3.7%も急上昇した。JPモルガンの米首席エコノミスト、マイケル・フェローリ氏は今月、第3・四半期も大幅に伸びる見通しだとし「基調的な生産性が上向く明るい兆し」が見られると記した。

同氏は、ソフトウエアや情報処理への投資が増加することで、こうした変化は持続しそうだとしている。人工知能(AI)の利用拡大を指しているのかもしれない。

高インフレが続く現状では、このことはFRBにとって大きな意味を持たないかもしれない。

しかし、生産性の向上は、インフレが鎮静化した後も経済成長を持続させる一助になる可能性があり、FRBが望む「ソフトランディング」の環境がまた一つ整う。潜在成長率が上昇している証拠にもなるかもしれない。

(Howard Schneider記者)