FRBが金利据え置き、年内あと1回の利上げ想定:識者はこうみる

9月 21 – [21日 ロイター] – 米連邦準備理事会(FRB)は9月19─20日に開いた連邦公開市場委員会(FOMC)で、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を5.25─5.50%で据え置いた。ただタカ派的なスタンスを強め、年内の追加利上げを想定している。

市場関係者の見方は以下の通り。

◎想定以上のタカ派、米長期金利は一段の上昇へ

<三井住友銀行 チーフストラテジスト 宇野大介氏>

インフレや経済見通しを踏まえると、想定外のタカ派で、サプライズな内容だ。パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は会見で中立金利に言及した。累積的な利上げをしているのにも関わらず、想定外に米景気は底堅く推移していることから、いままでの中立金利の水準ではインフレを抑制することができないと認識した。足元のエネルギー価格の上昇は、期待インフレにもつながっていく。米FRBは高水準の政策金利を維持して、引き締め期間の長期化をすることが可能になった。

広告 – スクロール後に記事が続きますReport this ad

ただ、市場の反応は鈍い印象。米FRBが中立金利の目線を上げたことから、米金利の水準修正があってしかるべきだ。今後米FRBのスタンスが反映され、逆イールドが修正されていき、中短期や長期ゾーンのフラット化が進み、順イールドの形成過程に入るだろう。米長期債や超長期債の金利水準は一段と上昇していく。

円金利も上昇圧力がかかりやすい。ただ、22日の日銀金融政策決定会合で政策の現状維持や市場が前のめりに織り込んでいたマイナス金利解除観測が後退することが想定される。日米の金融政策の方向性の違いを市場は改めて認識していくことから、足元の円金利の上昇分は剥落していくだろう。

◎米金利に上昇圧力、日本株は円安で比較優位に

<インベスコ・アセット・マネジメント グローバル・マーケット・ストラテジスト 木下智夫氏>

2024―25年の政策金利の想定が従来から引き上げられたことがサプライズとなった。米長期金利が上昇し、グロース株を中心に米国の株価に悪影響が出ており、日本株にもマイナス影響が及びそうだ。

パウエルFRB議長の会見も踏まえると、米景気の想定上振れによる将来的なインフレ圧力への警戒感が強いことがうかがえる。今後の景気指標で上振れが続くなら、市場の見方がFRBに寄り添う形で長期金利の上昇につながる可能性があり、米株のボラティリティは高まりやすい。

ただ、日米金利差が開いた状態は円安につながり、日本株には好材料となる。米長期金利上昇のマイナス影響は、米株ほどではないだろう。年末に向け、米インフレ率が徐々に落ち着いてくるなら、FRBはタカ派的すぎるとの見方から長期金利が低下に転じ、株価はよりしっかりしてくるだろう。

◎タカ派に傾斜、日銀会合無風ならドル150円も

<りそなホールディングス シニアストラテジスト 井口慶一氏>

年内あと1回の利上げの可能性が高まったことや、来年の利下げ時期が遅れるとの予想から、かなりタカ派サプライズとなった印象だ。今後も高い金利水準が維持されそうなことに加えて、経済見通しでは米連邦準備理事会(FRB)が米経済の軟着陸への自信をかなり強めていることが分かり、全体的にタカ派傾斜した印象。

市場はそこまでのタカ派化を見込んでいなかったため、米金利が急上昇し、ドル高が進んだようだ。目先もドル買いの動きは続くだろう。

◎24年金利予測引き上げはサプライズ=ナティクシス

タカ派的な据え置きがコンセンサス予想だったが、(金利)決定と、さらに重要なことに金利・経済見通しの双方でまさにその通りの結果だった。最近の当局者発言は金利が適切な水準にあるか、もしくは非常に近いという安心感を示唆していた。このため2023年の予測は据え置かれた。

問題はいつまで金利を制約的な水準に維持するかだが、これについては24年の予想中央値が50ベーシスポイント(bp)上昇し、サプライズだった。

経済は強さを維持している。24年(の予測)にシグナルがあるが、引き続きソフトランディング(軟着陸)のように読み取れる。インフレ鈍化予測をほぼ据え置きながらも成長率を上方修正し、失業率を下方修正している。

ただ、ドットチャートはあくまでメッセージツールであり、コア個人消費支出(PCE)価格指数が予想より急速に低下するなどデータが異なる展開になれば、実際の政策軌道も異なるものになるだろう。データが道筋を左右する。

◎米経済は軟着陸に近づく

<ボルビン・ウェルス・マネジメント・グループ(ボストン) ジーナ・ボルビン社長>

米連邦準備理事会(FRB)は現行水準で当面金利を維持するかもしれない。経済はFRBの想定以上に堅調なペースで拡大しており、第4・四半期に何を行うかついてパウエル議長でさえ分からない。

明らかにFRBはインフレと雇用の間でバランスを取るという中立スタンスに戻っている。

米経済は多くが予想していた景気後退(リセッション)からはほど遠い状態にあり、ソフトランディング(軟着陸)に近づいている。国内総生産(GDP)伸び率予想は1.1%から1.5%に上方修正された。

経済指標では、10月11日発表の生産者物価指数(PPI)と12日の消費者物価指数(CPI)が注目される。米経済のソフトランディングの可能性はかなり高いと思う。

◎一時停止でなくスキップ、タカ派バイアス維持

<コーペイ(トロント)のチーフマーケットストラテジスト、カール・シャモッタ>

「一時停止」ではなく「スキップ」だった。経済が予想より好調でインフレ圧力が根強い中、FRB当局者は声明文とドットプロットでデータに基づいたタカ派的なバイアスを維持することを選択した。

政策当局者は金融情勢のカウンタープロダクティブ(非生産的)な緩和を防ぐために、コミュニケーション戦略を「より高い」から「より長い」にシフトしようとしているのは明らかだ。ファンダメンタルズもこの戦略を支えている。超過需要の兆候は米国のいたるところに見られ、逆風は依然として著しく抑えられている。

◎利上げ見送りで信用市場に恩恵

<トランスユニオンの米国調査・コンサルティング責任者、ミシェル・ラネリ氏>

米連邦準備理事会(FRB)は従来、年内に再び複数回の利上げを行う可能性さえあるとし、積極的な引き締め姿勢を示していた。

しかし、今回の発表では今のところ、追加利上げが必要かどうか、またいつ必要かを判断するために、景気とこれまでの利上げの効果を監視し続けることが最善の策だと考えているようだ。

現時点での利上げ見送りは、信用市場全体に影響を及ぼす可能性が高い。例えば、住宅ローン市場では、これまで住宅購入を見送ってきた消費者が購入を検討する気になるかもしれない。クレジットカード保有者も、短期的には何らかの恩恵を受けるだろう。