Matthew Winkler

  • 日本経済は絶望的な機能不全との認識、もはや過去の話
  • 一人当たりGDPの伸びはG7首位、世界の投資家にも恩恵

長期停滞の典型と皆に見なされてきた国が、平均寿命や一人当たりの国内総生産(GDP)の伸びでいつの間にか主要7カ国(G7)をリードするようになり、最高経営責任者(CEO)や世界の投資家を苦しめてきたデフレに数十年ぶりに終止符を打った。それだけではない。「日出ずる国」日本はドル建てベースで世界のどの国・地域よりも大きい株式リターンをもたらしている。

  総務省の資料によると、今年1月1日時点の外国人を含む総人口は約1億2541万人と前年比で51万人余り減少。平均寿命は84歳を超え、240カ国中4位だ。それでも、世界3位の経済大国である日本の一人当たりGDPの伸びは、2013年から22年の間に現地通貨ベースで最も大きかった。

  ブルームバーグがまとめたデータによると、日本では同期間に人口が2%減少する一方で一人当たりGDPは62%増の472万円(約3万2000ドル)となった。米国の16%増(人口6%増)、カナダの45%増(同12%増)、英国の48%増(同5%増)、ドイツの32%増(同5%増)、フランスの33%増(同3%増)、イタリアの30%増(同1%減)を優に上回った。

  日本社会の長寿を重んじる傾向と、前世紀末の時点ではほとんど予想されていなかった繁栄は、人口動態の課題に直面する他のG7諸国にとり、富の創造を管理する上での教訓となり、一部の最も精通した投資家に大きな利益をもたらしている。アクティブ運用の上場投資信託(ETF)から日本に流入した資金は15億ドル(約2220億円)と、18年に13兆ドル規模のETF業界のデータが集計されるようになって以来最高となった。

  世界中のマネーマネジャーが、パッシブ運営のインデックスファンドよりも日本企業を選好している最も確かな兆候は、G7市場の中で最も強気な見通しと一致している。ブルームバーグがまとめたデータによれば、アナリストは過去3カ月間で目標株価を10%引き上げた。

  ブルームバーグ世界大型・中型株指数に基づくと、日本株は20年以降、95%のトータルリターン(インカムゲインと値上がり益)を記録。米国(64%)、カナダ(76%)、英国(73%)、ドイツ(47%)、フランス(78%)、イタリア(84%)を上回っている。自動車販売世界首位のトヨタ自動車の株価は上場来高値を今月更新。バリュエーションは過去9カ月で57%上昇し、ドル建ての時価総額が一時約3070億ドルに達した。

  「Tロウ・プライス・インターナショナル・バリュー・エクイティー・ファンド」を運用するロンドン在勤のコリン・マックイーン氏は、「過去3年間、比較的コントラリアン(逆張り)な株式ピッカーにとって良い時期だった」と振り返る。同ファンドの過去1年間のリターンはドル建てベースで23%と、日本に投資する世界の他の全てのファンドをパフォーマンスで上回った

  資産50億ドル以上、少なくとも5年間の日本株への投資配分が10%以上の74本のミューチュアルファンドあるいはETFの中で、マックイーン氏(56)が19年に運用を開始した同ファンドはライバルをアウトパフォームし、16位から首位に上り詰めた。ブルームバーグがまとめたデータによると、S&P500種株価指数と世界株価指数の2倍のリターンを上げ、日経平均株価も10ポイント上回る成績だ。

  マックイーン氏は今月のズーム経由のインタビューで、「日本はおそらく、隠れた機会のようなものだった」と指摘。「多くの銘柄がコロナ禍安値に戻ったのは、市場の悲観的な見方の中での行き過ぎのように見えた」後、「過去1年間でバリュー重視の株式戦略が大きくプラスになった市場の一つだ」と述べた。同氏のファンドのトータルリターンに最も貢献した銘柄は、マツキヨココカラ&カンパニー、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、住友商事、アシックス、日立製作所、日本製鉄、花王、日本酸素ホールディングス、オリンパス、太平洋セメント、東京エレクトロンなどだ。

  人口減少や慣行にとらわれがちに見える企業、移民や労働参加の拡大に対する抵抗などで日本は絶望的な機能不全に陥っているとの認識は、ノーベル経済学賞受賞者ポール・クルーグマン氏やコロンビア大学歴史学教授のアダム・トゥーズ氏など、最も影響力のある識者の一部によってますます否定されるようになっている。

  クルーグマン氏は7月25日付のニューヨーク・タイムズ紙のコラムで、「人口動態の調整を加えると、日本は著しい成長を達成した」と指摘。「日本は訓戒的なストーリーというよりも、むしろロールモデルのようなものだ。繁栄と社会的安定を保ちながら、困難な人口動態の中をやりくりする方法の手本だ」と評価した。

  22年7月8日に銃撃され死亡した故安倍晋三元首相の政権時代、「日本の女性はかつてないほど労働市場に参入した」とトゥーズ教授はサブスタックの22年7月の「チャートブック」ブログで書き、「日本女性の有給雇用の割合が米国よりかなり多いという事実は驚くべき歴史的転換だ」と指摘した。

  「アベノミクス」の着想の多くは、東京を拠点とするMPower Partnersの創業ゼネラルパートナーであるキャシー松井氏から得たものだ。松井氏は数回にわたってインスティチューショナル・インベスター誌のアナリストランキングで日本株式投資戦略部門1位に選出され、ゴールドマン・サックス・ジャパンで初の女性パートナーとなった。1999年に発表したリポート「ウーマノミクス」で、女性の労働参加を増やすことが日本のGDPの大幅な押し上げにつながると訴えた。

  文化的ダイナミズムを理由に「東京は新しいパリだ」と論じるエコノミストのノア・スミス氏は、2019年のブルームバーグ・オピニオンのコラムで、東京の多様性は「移民に対する日本のますますオープンな姿勢の結果である部分が大きい」と分析。「日本は人種的に純粋な島ではない。むしろ、ごく普通の豊かな国であり、移民、多様性、マイノリティーの権利、人種差別、国民性といった、ごく普通の問題に対処している」と指摘した。

  これは「日本の経済見通しがそれなりに良好」で投資対象としても「魅力的」なことを意味すると、Tロウ・プライスのマックイーン氏は言う。労働年齢人口が減少する中で、「特に女性の労働力参加の大幅増加」が「株主の利益につながる企業改革のトレンド」と合致しているとした。

  この変革に減速の兆しはない。サントリーホールディングス(HD)の社長で、経済同友会の代表幹事も務める新浪剛史氏は、日本経済がデフレからインフレへの転換点にあると指摘。インフレ局面では貨幣価値が目減りするため民間企業の投資が重要な役割を担うと、7日の都内でのインタビューで語った。

(このコラムは必ずしもブルームバーグ編集部、ブルームバーグLP、もしくはそのオーナーの意見を反映したものではありません)

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原題:Japan Shows How to Defeat Secular Stagnation: Matthew Winkler(抜粋)