凄惨としか言いようのないイスラエル軍によるガザ攻撃を毎日テレビニュースで見ながら、「ウクライナ戦争はなぜ終わらないのか」(高杉杉雄編著、文春新書)を読んでいる。プーチンの思想的背景、ウクライナとロシアの衝突の経緯など、この戦争が去年の2月24日に突然始まったわけではないことを理解する。もちろんそうした経緯は当時のニュースで垣間見ていた。とはいえ、水面下で繰り広げられていた関係各国、特に米国とロシアの対応、もっといえばバイデン大統領とプーチンの駆け引きまで詳細に理解していたわけではない。この本によると、ウクライナ戦争の開戦は「抑止力の破綻」を意味しているという。破綻の原因は単純ではない。さまざまな要素が複雑に絡み合い、戦争を防止する人類の知恵が働かなかった。抑止力の破綻は、逆に言えば、戦争が終わらない原因にもなっているという。ひょっとすると「核抑止力」も働かなくなっているのかもしれない。まさに人類の危機だ。
編著者である高杉氏の原稿のあとに続くのが「ロシア・ウクライナ戦争ーその抑止破綻から台湾海峡有事に何を学べるか」と題した論説が続く。その中で著者である福田淳一氏(笹川財団主任研究員)は、ウクライナ戦争の開戦そのものが「米欧諸国及びウクライナ等の現状維持勢力にとって、あきらかな『抑止の破綻』であった」と説く。なぜか、「ロシアはそれ以前からウクライナ国境に軍勢を集結させる等して侵略の兆候をみせていたからであり、これに対して米欧諸国もロシアへの伝達を通じて抑止を試みていたからである」と指摘する。侵略するぞと嘯くプーチン、そんなことをすると大変なことになると伝達する欧米諸国。それを無視してプーチンは一方的に侵略を開始した。要するにロシアに対峙する欧米諸国はある意味で、プーチンの暴挙を黙認したことになる。個人的にはバイデン大統領の弱腰が、抑止力破綻の大きな要因と考えているが、著者はそこまでは言及していない。
そもそも抑止力とは何か。著者によると「相手が取る可能性のある行動のコストやリスクが、その利益を上回るように相手を説得すること」だという。誤解を恐れずにいえば「眼には目を、歯には歯を」だ。力による攻撃にはそれを上回る力で対抗する、味方が受ける被害を上回る被害を相手に与えるということだ。では本来働くべき抑止力はなぜ破綻したのか。著者はプーチンの個人的意思が国家の意思になった、プーチンは国際的環境がロシアに有利に働いていると誤認した、さらにプーチンはウクライナが弱いと一方的に判断した(取り巻きがそうした情報しか上げなかった)など、8項目の理由をあげる。抑止の柱は対抗勢力による力の発露だ。ウクライナ戦争の場合は米国の対応ということになる。バイデン大統領は「第3次世界大戦を防ぐ」と強調した。歴史にイフはないとしても、仮に「第3次世界大戦も辞さず」と言った時に、ウクライナ戦争はそれでも始まったのだろうか?そして、抑止力の破綻が戦争が終わらない「最大の要因」になっている。
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