中村 正毅 

カルテル行為によって金融庁から16年ぶりに行政処分を受けた損害保険大手4社(記者撮影)

金融庁は12月26日、東京海上日動火災保険など損害保険大手4社に対し、カルテルや談合といった独占禁止法に抵触すると考えられる行為があったなどとして、保険業法に基づく業務改善命令を出した。

16年ぶりの損保大手4社への行政処分

処分を下されたのは、東京海上のほか、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険の4社。4社が金融庁から行政処分を受けるのは、2007年の「保険金不払い問題」以来、16年ぶりとなる。

各社は主に大手企業向けの共同保険(リスク分散のため複数社で保険を引き受ける仕組み)や官公庁向けの保険で、提示する保険料の水準や団体割引率を担当者間で事前に調整したり、単独で引き受ける場合はどこが幹事会社となるかをすり合わせたりした疑いがある。

今春には、東急グループ向けの企業財産包括保険(火災保険)や賠償責任保険で、4社が提示する保険料の水準を調整するといったカルテル行為に及んでいたことが発覚。その後、金融庁が保険業法に基づく報告徴求命令を複数回にわたって発する中で、日産自動車、京成電鉄、石油元売りのコスモエネルギーホールディングス、ENEOS、シャープ、成田空港、東京都、警視庁など広範な業種・団体向けの保険でも疑義があることが判明している。

大手4社によるカルテル行為が、10年以上の長期に及んでいるものもあることから、金融庁は報告徴求命令と並行して各社に任意でのヒアリングも実施。新たな疑義が発生した契約の内容に加え、1998年の保険料率の自由化までさかのぼって大手企業との現在までの取引状況や営業活動の実態を詳細に報告させていた。

業務停止などの重い処分をまぬかれたのはなぜか

4社によるカルテル行為の組織性、悪質性、反復性を踏まえると、一部業務停止などの重い処分も当初は想定された。しかし、ふたを開けてみれば業務改善命令にとどまった。その理由は大きく2つある。

1つ目は、業務停止にすると契約者の利益を損なう可能性が大きいこと。大手4社が業界シェアの8割超を握る寡占状態にあって、仮に共同保険の引き受けを一定期間停止させると、ほかに引き受ける損保が現れず契約更改できない企業が続出する可能性があった。

2つ目は、カルテル行為が現時点では疑義にとどまっていること。東急グループ向けの共同保険をはじめとして、保険料の事前調整行為などがカルテルや談合にあたるかどうか、実際に判定するのは金融庁ではなく独禁法を所管する公正取引委員会だ。公取委が損保各社に立ち入り検査に入ったのは12月19日で、公取委による排除措置命令や課徴金処分が下されるまで時間がかかる可能性がある。

だが12月以降、カルテル行為の対象となった東急向けなど複数の契約が更改時期を迎え、損保各社はすでに交渉に入っている。金融庁としては早期に業務改善命令を出し、大手4社による再発防止の取り組みを加速させることを優先するべきと判断したわけだ。

金融庁は4社に対し、2024年1月末までに再発防止策をはじめとする業務改善計画の検討状況を中間報告させ、同2月末までに同計画の最終形を提出させることを求めている。

また、各社から独禁法違反の疑いのある取引をしたとして自主申告を受けた企業・団体数が現時点で576にも上ることから、金融庁として今後さらに個々の事案についても調査を進める方針だ。

金融庁は行政処分と並行して、カルテル事案の詳細な調査についても引き続き進める方針だ(記者撮影)

さらに経営責任の明確化についても求めている。その中で、金融庁が厳しく指摘したのが、歴代の経営陣によって醸成された「(独禁法などの)法令順守よりも自社の都合を優先する企業文化」である。

カルテル行為は、特定の部署や担当者によるものではなく、長期間にわたって業界全体の「悪弊」となっていた。その背景には、取引関係の維持を何よりも優先する歪んだ文化や組織風土があり、その是正が必要不可欠と金融庁は見ている。

損保のビジネスモデルそのものが問われている

カルテル問題をめぐっては、大手企業傘下の保険代理店が主導したケースもある。そのため、代理店経由が収入保険料の9割を占めるという損保業界のビジネスモデルそのものが、あり方を問われる事態にもなっている。

保険自由化から四半世紀。これまで温存させてきた事業構造や悪弊を、大手4社は断ち切ることができるのか。保険会社としての信頼を失ってしまった今、改革の手綱を今後緩めるようなことがあれば、大手といえども淘汰の波が容赦なく押し寄せることになる。