テスラのCEO、イーロン・マスク氏がまたまた米国を揺さぶっている。昨日のブルームバーグ(BB)報道によると同氏は、法人登記の変更に関する賛否を自身が経営するX(旧ツイッター)に呼びかけ、投票者の90%近い賛成票を獲得したという。同氏はすでにテスラの本社をカリフォルニア州パロアルトからテキサス州の州都オースティンに移している。「自身の拠点と慈善団体も移転し、アボット州知事らテキサスの政治家らと親交を重ねている」ようだ。テスラの本社移転に次いで今度は登記上の本社も現在のデラウェア州からテキサス州に移す計画で、Xのユーザーに投票を呼びかけていた。投票は31日にすでに締め切られている。BBによると「法人登記変更は(投票した)110万票の約87%が支持している」とされる。共和党支持と民主党支持で分断される米国に、今度はマスク氏が本社登記の移転という新たな分裂火種を持ち込んだことになる。

背景にあるのは、デラウェア州の裁判所がテスラのCEOであるマスク氏の、総額5500億ドル(約8兆1000億円)に上る報酬プランについて無効との判断を下したことにある。BBの別の記事によると、デラウェア州ではフォーチュン500企業のほぼ7割が法人登記を行っている。「法人設立費用は22022年、同州に20億ドル超の収入をもたらしており、同州の年間予算の約4分の1を占める」とある。マスクも当初はそんなデラウェア州に惹かれて本社の登記を行ったのだろう。その州が今度は自らの報酬計画を否定した。頭に来たマスク氏がデラウェア州にしっぺ返しをしたというのが今回の本社登記移転計画というわけだ。デラウェア州に代わる移転先となっているテキサス州は、移民の扱いをめぐってバイデン政権と対立している。一部ではこの対立は内戦に発展する可能性もあると危ぶむ向きもある。アボット知事は言わずと知れた共和党の有力者だ。

マスク氏は大統領選の共和党候補をめぐり、トランプ氏ではなくデサンティス・カリフォルニア州知事を支持していた。デサンティス氏はすでに大統領選挙から撤退している。これにあわせて同氏はアボット・テキサス州知事に接近しようとしているのだろうか。BBによるとマスク氏は日本円にして約8兆1000億円という自らの報酬プランが無効と判断されたあと、Xで不満をぶちまけたという。そして「決してデラウェア州で法人登記を行ってはならない」と投稿した。今回の行動がデラウェア州に対する怨念なんのか、企業統治にかんする比較優位の違いななのか、よくわからない。記事に引用されているペンシルバニア大学のジル・フィッシュ教授(会社法・訴訟)は、「デラウェア州の裁判所は、支配株主の行動が常軌を逸した場合、積極的に規制することで知られている」と述べている。米国を分断する動きがまた一つ加わった。

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