日経平均株価が34年ぶりという新高値更新を前に足踏みをしているが、いずれ更新することは間違いないだろう。理由は簡単。バブルは急に止まらないからだ。ついでに日本経済は健全なのか、2つの記事をベースに考えてみた。1つは2023年の日本の経常収支黒字が20.6兆円と前年比90%増を記録したという記事(8日付)。2つ目は経常黒字と円安の関係を分析した「コラム:日本はデジタル小作人か、仮面の経常黒字と円安の関係」(20日付、ロイター、みずほ銀行エコノミスト唐鎌大輔著)。経常黒字は海外とのさまざまな取引にかかる出と入りの差し引きを示している。前年の黒字急増の背景はガソリンなど資源高の一服で輸入金額が減少したうえに、輸出の増加で黒字が急増した。腑に落ちる黒字の急増と言っていいだろう。腑に落ちないのはそれでどうして円安になるかだ。
これを分析したのが2番目のコラムだ。著者の唐鎌氏は経常収支の黒字急拡大は、統計データをベースにした「仮面の黒字国」「仮面の債権国」の姿だと指摘する。円相場の需給関係を考える上では、キャッシュ・フロー(CF)をベースにして考える必要があると指摘する。海外とのモノやサービスの取引の大半は通常ドルで決済される。車を輸出した企業の売り上げ代金は、銀行のドル預金口座に送金される。これがCFの流れだ。ドルで受け取った企業がこれを円に転換(円転)すれば円買いの需要が発生する。貿易収支はほとんど赤字なので円転のニーズはない。黒字の大半を占めるのは第1次所得収支(利子や配当金など)だ。23年の第1次所得収支の黒字は約12兆円に達している。だが、こうした資金は金利の高いドルで運用されるのが一般的。円転はほとんどおこらない。外為市場における円の需給関係でみれば「円買需要にはならない」(唐鎌氏)。資産大国・日本の円に買いが入らない要因の一つがここにある。
もう一つ気になるのはサービス取引のうちのデジタル関係の収支だ。周知のようにこの分野はGAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)の独占場だ。日本は彼らの提供するプラットフォームを有料で利用している。かつ利用金額は彼らの言い値。この先プラットフォーム需要は増えることはあっても減ることはない。日本中がせっせと働きながら使用料を彼らに払っている。この状態を称して唐鎌氏は「デジタル小作人」と呼んでいる。経常黒字がいくら増えても海外とのCFの構造は変わらない。ドルで蓄積された資産の円転は起こらず、デジタル化が進めば進むほど円の海外支払いは増える。要するに基調的な円資産の取り崩しである。前年に経常黒字が大幅復活したことで「国際収支にまつわる過度な悲観論は誤りだった」とする論調がいまの日本にはあるようだ。唐鎌氏はこうした主張が「仮面の黒字国」論に過ぎないと断定する。 “悲観的”にならざるをえないのは日本の将来だ。
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