ウクライナの戦況がロシア有利に傾く中で、フランスのマクロン大統領が26日、パリで開かれているウクライナ支援の国際会合で演説。「欧米諸国の地上部隊をウクライナに派遣する可能性を排除しない」との考えを表明した。このニュースを見たとき、直感的に「来るものが来た」と感じた。この発言を受けてEUならびにNATO、米国など西側諸国で大論争が巻き起こるだろうと思った。だが現実に起こったのは反マクロンの大合唱のようだ。だが一部にはこの発言を評価する声もあるという。ロイターが昨日の夕方配信した「焦点:仏大統領のウクライナ派兵巡る発言、NATO諸国に大きな波紋」がEUの動揺を簡潔にまとめている。これを読みながら個人的に感じたのはEUの“弱さ”だ。EUだけではない。バイデン大統領や日本をはじめとする西側諸国に共通する弱さだ。

ロイターの記事は今回の発言について次のように指摘する。「その意図はロシアに対する『戦略的な曖昧さ』を提起することにあったが、あまりにも曖昧だったため、北大西洋条約機構(NATO)諸国に混乱といら立ちを巻き起こしている」と。そうだろうか。問題は曖昧さにあるのではないと思う。「欧米諸国が地上部隊をウクライナに派遣する」という、“禁句”ともいうべきこの一言が大統領の口から発せられたその事実に、欧米首脳は度肝を突かれてしまったのではないか。NATOは価値観を共有するにEU諸国を守ることを目的として結成されている軍事組織だ。だがウクライナ支援をみるまでもなく、共通の敵に立ち向かう覚悟はさほど強固ではなかった。EUにもNATOにも加盟していないウクライナを支援しようと決めたときに、「断固守る」と決意したとも思えない。マクロン発言はその意図はともかくとして、そんなEUの内情を公に曝け出したのだ。

ロイターは「伝統的な思考に挑発的な姿勢を取りたがる『外交の破壊者』というマクロン氏の評判にふさわしいものだ」と指摘する。仮にそうだとしても、新しい時代は何者かによる破壊からしか始まらないのではないか。バイデン大統領はプーチンの核による脅威に対抗して、「第3次世界大戦は起こさない」と発言している。一見正当な発言に見える。だが、この発言を聞いてプーチンは内心ほくそ笑んだことだろう。「ウクライナで何をやっても米国は行動を起こさない」。戦争の抑止力というのは「目には目を、歯には歯を」という、暴力のレシプロシティーによって支えられている。メドベージェフ前大統領はマクロン発言について、「ナポレオンの小心で悲劇的な後継者たちはナポレオン並みの復讐を熱望し、狂暴で極めて危険なたわ言を吐いている」と言葉の暴力を駆使する。個人的には「どっちの方が危険だ」と叫びたいのだが、西側の首脳たちは脅迫合戦ですでに負けている。

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