▽焦点:増える中国の住宅ローン延滞、不動産・消費に一段の下方圧力<ロイター日本語版>2024年3月17日午前 8:03 GMT+9
[北京/香港 13日 ロイター] – 中国南部の恵州市で金融関係の仕事を失ったレイ・ジャオユさん(38)は今、住宅ローンの返済が滞っており、取立人に追い回される境遇にある。避けられない破局を少しでも先延ばししようと、電話には一切出ないようにしている。
2022年終盤に失業し、130万元(18万1139ドル)で買った住宅のローンとクレジットカードの借金の返済ができなくなったレイさんは「私にとって唯一の家で、差し押さえされたくない。でも、何ができるのか」と途方に暮れる。
<今年1月の差し押さえ件数、前年比64%増>
7年前に家を購入したことを悔やみながら「私は自分の若さを無駄にしたような気がする」とつぶやいた。
レイさんのような状況に陥った人は、中国ではまだ少ない。だが、その数は急速に増え続けている。
背景には、不動産危機や地方政府の債務増大、デフレ懸念などに伴って経済全体が依然として部分的な回復にとどまり、足場がもろいことがある。
複数の専門家は、住宅ローン延滞件数の増加は不動産価格と消費者信頼感の双方にとって悪影響を及ぼしかねず、家計需要を促進して経済基盤をより強化しようという政府の努力に一層の冷や水を浴びせる恐れが出ている。
中国の民間不動産調査大手、中国指数研究院(チャイナ・インデックス・アカデミー)の分析では、23年に差し押さえられた物件数は前年比43%増の38万9000件。今年1月はさらに5万件以上が差し押さえとなり、前年比増加率は64.4%に達した。
華宝信託のエコノミスト、ニー・ウェン氏は、延滞と差し押さえ増加は消費を萎縮させているだけでなく、過剰な不動産投資は避けるべきという警鐘にもなっていると述べた。
レイさんも到底、消費などできる気分ではない。
昨年はライブ配信経由でさまざまな所有品を売って稼いだ合計額は約4万元。毎月の住宅ローン返済額の4200元に充てるには不十分で、毎日の基本的な生活費すらおぼつかない。
「私が着ているのは全て5年前の服だが、体重が増えたので、その多くはもう合わなくなってきている。友人からはお古のコートをもらった。旅行は17年以降、一度も行っていない」という。
レイさんにとって最も心苦しいのは、毎月3000元の年金で暮らす母親を支えてあげられないことだ。
<競売物件も増加>
中国指数研究院のデータからは、23年に9万9000件の差し押さえ物件が競売に付され、売却総額が1500億元だったことが分かる。
北京の差し押さえ専門会社幹部のデュアン・チェンロン氏は、これらの競売は2─3年前に発生した債務問題の結末なので、競売物件の増加ペースは今後、加速する公算が大きいとの見方を示した。
デュアン氏は「新型コロナウイルスのパンデミック後の経済環境は良好ではなく、失業などが原因で住宅ローンでは多くのデフォルト(債務不履行)が起きている。まだ、競売物件と返済がままならなくなっている資産の規模にはギャップがある」と指摘。将来的に競売が増えれば、通常の市場での買い手候補の目がそちらに向くことで、新築住宅や中古住宅の価格が圧迫されてもおかしくないと付け加えた。
一方、中国の幾つかの都市では、差し押さえ物件の競売が何度も不調に終わるケースも見られる。
河南省の駐馬店市出身のシングルマザー、シンさん(30)は、起業のため自宅マンションを担保に借金をしたものの、20年のロックダウンであっという間に廃業を強いられ、家を失った。
19年当時で31万元と評価された物件は過去1年間で2回、シンさんが銀行から借りている17万元で競売が行われたが、買い手は現れなかった。
シンさんは「誰が買うのか。同じマンションでほかに10戸以上も競売に出されているのに」とため息をついた。
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