新たな紙幣が今日発行された。発行されたといっても一般市民の手に届くまでには少し時間がかかるだろう。20年ぶりの紙幣交換だ。けさテレビの情報番組を見るまでほとんど関心はなかった。テレビ局の中継は、昨日から某銀行の前で待っているマニアの姿を映し出していた。どうしてそこまでして新札を手に入れようとするのだろうか。テレビ局の説明によると新札の記番号の下3桁が100番以下の新札は、希少価値があって高くなるのだそうだ。なるほど、マニアが無理して長時間並ぶ訳がわかった。だが発行初日に交換したからといって、記番号の若い新札が手に入るわけではない。日本には千を超える金融機関があり、その店舗となると3万近くに達する。新札は財務省印刷局で印刷され、日銀を経由して全国の金融機関に発送される。記番号が100番以下の新札がどの窓口に届くか、誰にもわからない。長時間並んでいるマニアには「ご苦労さん」と声をかけたくなる。

日銀の植田総裁は今朝、新札発行の記念式典で以下のように訓示した。「本日、1兆6000億円の新しい日本銀行券を世の中に送り出す予定です。キャッシュレス化が進展していますが、現金は、誰でもいつでもどこでも安心して使える決済手段で、今後とも大きな役割を果たしていくと考えられます。新しい日本銀行券が国民の皆さまのお手もとに広く行き渡り、わが国経済を支える潤滑油となることを期待しています」と。時代は現金よりもキャッシュレスに移行しつつある。慣れてしまえば現金よりも手間が省けるし、決済にかかる時間も短縮できる。新札に交換すれば「誰でもいつでもどこでも」使えるわけではない。自動販売機は新札に対応するために最低でも1台あたり100万円程度のコストがかかる。ただでさえ人手不足だ。飲食店など自販機に置き換えたお店が、すぐに新札に対応できるわけではない。要するに新札は「誰でもいつでもどこでも」使えないのだ。

偽造防止という新札発行の目的を否定しているわけではない。新札が「わが国経済を支える潤滑油」となるためには、それなりの環境整備が必要だと思っているに過ぎない。新札に切り替えてもお札の流通速度が上がらなければ意味がない。現在使われているお札には2つの特徴がある。一つは「タンス預金が可能」ということだ。ゼロ金利が長らく続いた結果、国民の多くがお札を自宅に仕舞い込むようになった。預金しても金利がつかないゼロ金利だ。わざわざ金融機関に預ける必要はない。もう一つは国内で運用するより海外で運用する人が増えたことだ。円を取り巻く環境整備が進まない限り、旧札でも新札でもこの特徴は変わらないだろう。旧札の環境を引き継いでいる新札だが、先行きには多少明るい光が差し込みそうな雰囲気もある。新札が日本経済の潤滑油になると期待を寄せる植田総裁が金利の引き上げを意識しているからだ。だが、環境整備は遅々として進まない。近代日本経済の父と言われる渋沢栄一をあしらった1万円札以下新札は、日本経済の潤滑油になれるかだろうか。

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