国際的に注目された一連の選挙が終了した。英国もフランスも選挙前の課題はすべて選挙後に先送りされ、結果的に民主主義の危機感は一段と深刻になった。11月に控える米国の大統領選挙では、バイデン大統領の高齢化が問題になっている。イランでは決選投票で改革派が当選した。民主主義の“危機”は深刻化する一方だが、同時に強権国家側も決して楽観できる状況ではない。国内では都知事選挙で小池氏が予想通り大勝した。3件の刑事告発を抱える小池氏には、大勝後も都知事としての“正当性”をめぐり疑念がつきまとう。唯一の希望は、既成政党に頼らず出馬した石丸伸二氏が、政治的に無関心だった無党派層の若者中心に166万票弱を集めたことだ。次に想定される解散・総選挙に向けてこの動きがどこまで広まるか、旧来にない新しい“見どころ”が登場した。ロシア、中国、北朝鮮も政権基盤が揺らぎつつある。とりあえず西側の焦点は「選挙後」ということになる。
イギリスは労働党が圧勝した。保守党と労働党が交互に政権を担当している国であるとはいえ、1回の選挙でこれほど激しく議席が変動する国も珍しい気がする。だが両党は政策的に大きな差はなくなっている。ロイターによると英国はインフレが家計を直撃し、住宅不足に国民は不安を抱え、企業マインドは冷え込んでいる状況だという。政権が労働党に移っても、財源が湯水のごとく生まれるわけではない。前々任者のトラス首相は財源を明記しないまま、巨額の財政支出を公約して失速した。スターマー新首相は「増税しない」と公約している。経済運営に特効薬はないだけに、どこに活路を求めるのか。先行きは決して楽観できない。大どんでん返しを繰り広げたフランスも状況は似たり寄ったり。マクロン与党は決戦投票でかろうじて第2党の立場を確保したとはいえ、国民議会は主張が全く違う3つの勢力に分断された。完全に「ハングパーラメント(hung parliament、宙吊り議会)」化するだろう。
ドイツも与党が盤石ではない。フランス政治の不安定化はE Uの先行き、ウクライナ戦争の将来に暗い影を投げかける。肝心の米国はバイデン大統領の高齢化問題で、西側陣営に手を差し伸べる余裕などどこにもない。それどころか、トランプ氏の再登場が確実になれば、正義も大義もないロシアの一方的な侵略戦争を容認することになりかねない。こんな情勢の中でイランでは改革派のペゼシュキアン大統領が誕生した。保守強硬派のハメネイ氏が全権を牛耳っている限り、新大統領がどこまで改革を推進できるか不透明だが、一連の選挙の中では一筋の灯りのようにも見える。国内では石丸氏が今後の政治活動について問われ、「選択肢としては、たとえば広島1区。岸田首相の選挙区です」と答えた。それもいいが、もっと大きく、無党派層の若者を巻き込んだ新党も夢ではないだろう。深刻化する危機のさなかにちょとだけ垣間見えた一条の灯火だ。
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