最近は朝起きてまず円相場を確認するのが日課になってしまった。F X取引(外国為替証拠金取引)をやっているわけではない。日本経済の現状がすべて円相場の動きに反映されている気がするからだ。この原稿を書いている時点の円相場は1ドル=161円強、4月から5月にかけて財務省が為替介入に踏み切った時の水準が160円強だった。すでにその水準を下回っている。だが市場では、一時強まっていた介入警戒感があまり感じられなくなった。「介入で円安は止まらない」、財務省も介入の限界をわかっているのだろう。同省が8日に発表した5月の経常収支(海外で稼いだ額)は2兆8499億円の黒字。5月としては過去最大となった。N H Kによると「海外の金利の上昇や円安を背景に、企業が保有する債券の利子による収入が増えたことなどが主な要因」とある。日本の海外で稼ぐ力は依然として衰えていないようだ。

経常収支が大幅な黒字になれば、普通に考えればドル売り・円買いが進み円高になるはずだ。それがそうはならない。ここに日本経済にまとわりついている構造的な欠陥がある。円の相場水準は基本的には需給によって決まる。円を売ってドルを買う人が多ければ円安、その逆なら円高。単純だ。現状は円を買いたい人より、円を売りたい人の方が多いということだ。どうして?端的にいえば円に魅力がないからだ。なんで魅力がないのか、理由はいろいろあるが、一つは内外金利差。ドル金利の方が高いから、輸出でドルを稼いだ人はそのままドルで運用している。稼いだドルの円転が進まないから、「稼いでも、稼いでも円安」になる。円相場の管理人というべき人がいる。財務省の神田真人財務官だ。“宇宙人”という異名を持っている。円安になるとテレビのニュースに登場し、「為替の投機的な動きには厳然と対応する」と市場関係者を“恫喝”している人だ。会ったことことも話したこともないが、この人もさすがに介入で円安は止まらないことは理解しているのだろう。

自ら座長となって「国際収支から見た日本経済の課題と処方箋懇談会」を組織、専門家を集めて「どうしたら円安は止まるか」議論した。財務官がこうした懇談会を組織するのは異例だ。2日にまとまった報告書の結論は以下のように記されている。「構造的な改革の必要性は、これまで長く指摘されていたものの、その実施は遅滞してきた。その分、伸びしろは大きい。人口問題や熾烈な国家間競争を踏まえれば残された時間は少ないが、改革を着実に実施し、市場経済のダイナミズムを強化すれば、競争力のある日本経済を取り戻すことは十分可能である。我が国企業は370 兆円にも上る現金・預金を有するなど、未来に向けた投資のためのリソースは十分ある。必要なのは、これらを有効に活用することだ」。日本経済を円に置き換えれば分かりやすい。能力も資源もあるが、誰もそれを活用していない。これが円安の理由だ。

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