先週来為替市場の変動が激しくなっている。円・ドルに限定すれば先週11日に発表された6月の米消費者物価指数(CPI)統計が予想を下回ったことを受け、円がドルに対して急騰、161円台から一時157円台まで4円強の円高となった。財務省は介入のコメントを避けたが、市場では続く12日も含め数兆円規模の円買い介入が実施されたと推測している。これを機に外為市場では一気に円高機運が高まった。現地時間13日にはトランプ氏に対する銃撃事件が発生、ドルが乱高下するなどドル・円のボラティリティーが急上昇する。そして14日、ブルームバーグ(B B)がトランプ氏のインタビュー記事を掲載。この中で同氏は「ドル安を望む」と、“もしトラ”の基本的な経済政策の柱をブチあげた。蛇足だが自民党の次期総裁選挙に出馬するとみられている河野太郎デジタル担当相が17日、円高を実現するために政策金利を引き上げるよう日本銀行に求めた。これを伝えたのもB B、18日のことだ。

一本道と見られていた円安に突如立ちふさがった円高の動き。これは一体どう解釈すればいいのか。あるいは円高は定着するのだろうか。財務省の介入は論外としても気になるのは、銃撃事件を受けて大統領への復帰確率が俄かに急上昇しているトランプ氏のドル安待望発言だ。トランプ氏は2016年の大統領選で、サンベルト(錆びた地域)で白人有権者の支持を得て当選している。この地域はもともと米国を代表する製造業地帯。ドル高の進行につれて多くの工場が海外に移転、中産階級の働き手だった白人労働者が路頭に迷うという憂き目を見た地域でもある。トランプ氏の代名詞とも言うべきMAGA(Make America Great Again)の標語が、この地域を筆頭に同氏を大統領に押し上げたといっても過言ではない。ドル安は米製造業の競争力回復を目指すトランプ氏にとって、経済政策の“核心”といってもいいだろう。親密さ取り沙汰された安倍氏とも「激しく、強力に闘った」と述懐している。トランプ氏はドル高・円安のアベノミクスを許せなかったのだろう。

これに呼応するかのように河野氏が「円高推進」を口にした。日銀は次の金融政策決定会合(7月30日〜31日)で、政策金利の引き上げと国債買い入れ額の削減を決めると見られている。いずれも円高誘導策だ。アベノミクスで10年以上続いた円安政策が本当に転換されるのだろうか。政府・日銀にその覚悟はあるのだろうか。現にちょっとした円高で株価が急落している。日米ともドル安・円高への転換は相当の痛みを伴う。政策金利を多少動かしただけで、市場に浸透しているドル高・円安を前提とした構造が変化するわけではない。トランプ氏が大統領になったとしても「ドル安を期待する」と言うだけで、基軸通貨であるドルの優位性が失われるわけではない。基軸通貨としての立場を放棄すれば別だが、そんなことを米国がやるはずもない。要するにドル安は言うほど簡単ではないのだ。日本が円高の覚悟を決めれば、日米の協調介入に道が開けるかもしれない。もしトラ、考えようで使い道はある。

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