セブン&アイ・ホールディングス(HD)は19日、カナダのコンビニエンスストア大手、アリマンタシォン・クシュタールから法的拘束力のない初期的な買収提案を受けたと発表した。国内最大のコンビニ運営企業に対する買収提案である。正直言って驚いた。最初このニュースに触れた時、7&i H Dがカナダ企業を買収するのかと思った。ブルームバーグ(B B)によると7&i H Dの時価総額は直近で約5兆6000億円。実現すれば日本企業を対象としたM&Aとしては過去最大規模になるという。買収が実現するかどうか、現時点ではわからない。専門家は「クシュタールの財務状況を鑑みると、強力な提案をすることは難しいかもしれない」(ライトストリーム・リサーチのアナリスト・加藤ミオ氏)と買収実現にやや否定的。仮に実現しないとしてもコンビニ業界の最大手に買収の提案をすること自体が、日本企業の先行きを予言しているような気がする。

個人的にはコンビニ業界の実態に関して何の知識もない。このニュースを見たときに直感的に思ったのは「円安が招いたM&A」との印象だ。日本企業はこれまで円高の進展に合わせるように海外の有力企業を買収してきた。その結果として日本の国際収支は利息や配当収入で構成される第1次所得収支が大幅な黒字になり、この黒字が貿易収支の赤字を上回ることによって経常収支の黒字化を実現している。カナダ企業による今回の買収提案は、この構造に変化をもたらす可能性がある。海外の有力企業を買収してきた日本企業が、これから先は海外企業に買収される可能性が大きくなるということだ。もちろん、いますぐにそんな事態が起こるわけではない。円安が長期的に継続すれば、日本企業を対象としたM&Aは活発化するだろう。日本企業の買収が活発化すれば、巡り巡って円は海外に流出する。これがさらに円安を加速、円をめぐる需給関係は一段と悪化する。要するに円安の悪循環がはじまるのだ。

7月下旬に実施された財務省による円買い介入によって、円相場は目先的には160円台から146円台まで円高で推移している。市場関係者の予測は円高継続が支配的だ。円安に目先的な頭打ち感がで始めたことで、株や債券などマーケットの動きも落ち着きを取り戻しつつある。そんな中での今回の買収提案は、先行きの円安を暗示しているような気がする。海外企業から見ればいま日本の企業は“お買い得”なのだ。折から与党・自民党と最大野党・立憲民主党が総裁選と代表選に突入する。ちょうどいい機会でもある。政治の信頼回復と同時に、日本経済をどこに導こうとしているのか、経済政策ならびに為替政策について真剣に議論してもらいたいと思う。とかく選挙は政策よりムード優先になる。それは致し方ないとしても、経済政策としての為替は円高か円安か、どちらを選択するのか、いずれの候補者にもはっきりと意見表明してもらいたいものだ。