Bloombergが昨日配信したコラム「追加利上げの衝撃、植田日銀は教訓学べ」に痛く同感した。日本のメディアでこのような記事はあまりお目にかからない。記事の中に日銀の独立性という言葉は出てこないが、コラムニストであるダニエル・モス氏とリーディー・ガロウド氏の二人の共著者はまさにそれを問うているのだ。極端なことを言えば日銀には独立性などない。メディアがよく口にする「報道の自由」と同じで、無いものねだりの感がある。7月30日と31日に行われた金融政策決定会合で日銀は、政策金利を0.25%まで引き上げると同時に、国債の買い入れ額を減額することを決めた。同じ日に開かれたF O M C(公開市場委員会)後の記者会見でパウエル総裁は、9月に開かれる次期委員会で利下げを行う可能性を示唆した。これを景気後退の可能性と受け取った市場では、翌週の5日(月)から株価を始めマーケットが大暴落に見舞われた。

植田総裁は23日に開かれた衆院財務金融委員会の閉会中審査で、この件に関連して次のように説明した。「(大暴落は)日銀の追加利上げを含む日本で起こった事柄ではなく、米経済への不安が原因」と。コラムはこの認識が間違いだと指摘する。「問題なのは、日銀には何の影響力もないという前提に立っていることだ」。日銀の決定は今や世界的な影響を巻き起こす可能性がる。こうした認識が日銀自体にないとコラムは強調する。その上で7月の決定は「予想外だった」と分析。「日銀の誤りは、利上げそのものではなく、利上げが国債購入減額計画および将来の複数回の利上げ見通しを示した新たなタカ派的フォワードガイダンスと組み合わされたことにある。大半のエコノミストは、植田総裁が利上げを見送ると予想していた」。要するに今回の決定は市場関係者にとっては「サプライズだった」のである。

F R BやE C Bなど世界の中央銀行はサプライズ回避に努めている。市場関係者に対しては、政策の方向性を明確にする事前説明に重点を置いたコミュニケーションに努めている。パウエル議長は先ごろ開かれたジャクソンホール講演で、「金融政策調整の時が来た」と9月会合での利下げを示唆した。植田総裁は5月会合後の記者会見で、「円安は物価に大きな影響を及ぼしてはいない」と力説した。その舌の根も乾かぬうちに7月会合では「円安が急激な物価上昇をもたらす懸念がある」と利上げに踏み切った。この時点では米国の景気後退懸念から相場は円高基調に転換していた。なんともチグハグな決定だった。サプライズと批判されるのを恐れてか、決定内容が事前にメディアにリークされた。これも本来あってはならないことだ。コラムは5月に植田総裁が岸田総理と会談している事実を踏まえ、「慎重かつ冷静だった植田総裁に政治が重くのしかかっている」と推察する。日銀総裁は翻弄されているのだ。