F R Bは昨日終了したF O M C(公開市場委員会)で0.5%の利下げを決定した。今回のF O M Cでは利下げが確実視されていた。下げ幅については0.25%説と0.50%説に分かれていが、金融関係者の間では前者の説を推す意見が強かった気がする。結果は0.5%の大幅利下げ。パウエル議長は委員会後の記者会見で「後手に回っているのではなく、これは適時であると考えている」と発言した。同議長は2022年3月にインフレ対策の利上げに踏み切ったが、この時は「後手を踏む金融政策」と各方面から批判された。そんな過去の経験が生きたのだろう。今回は大方の予想を覆す形で0.50%の大幅利下げに踏み切った。過去の経験が生きた利下げと言っていいだろう。だが、この決断には際どい要素が孕んでいる。

今回の利下げについてトランプ前大統領は記者団に次のように語っている。「政治的な駆け引きでないとすれば、これだけ引き下げるということは景気が非常に悪いのだろう」と。この発言には大統領選挙を意識したハリス対策という意図もあるのだろう。とはいえ、いつも慎重な判断をするパウエル議長が、労働市場の悪化に先手を打つように大幅利下げに踏み切った。市場の一部には今回の利下げをサプライズと表現する人もいる。労働市場は8月の雇用統計を見るまでもなく、このところ雇用悪化のシグナルが散見されていた。このため7月のF O M Cで利下げを見送った時にも、「F R Bは後手を踏んでいる」との懸念が表明された。そんな雰囲気を意識したのだろう。同議長は8月に開催された「ジャクソン会議」で、9月利下げを半ば公然と認める発言をしていた。

問題は0.25%か0.50%か、下げ幅だ。F R B内部を含めて市場関係者の見方は分かれていた。2つのうちのどちらかかと言えば、常識的な0.25%説を支持する意見が多かったように思う。現に12人の委員のうちボウマンF R B理事が0.25%の利下げを主張し、反対票を投じている。トランプ氏が指摘する「景気が非常に悪い」との見方は、それ自体が政治的な駆け引きでもある。おそらくそうではないだろう。データ重視の金融政策決定にはリスクがともなう。それはデータが明らかになるのに1ヶ月程度時間がかかるという現実だ。現にきのう発表された8月の小売売上高も1ヶ月前の数字だ。現時点どうなっているかわからない。そこは経験と実績で補うしかない。パウエル議長は労働市場の一段の悪化を防ぐため予防的利下げ、保険としての大幅利下げに踏み切ったのではないか。これはF R Bの独立性の証明でもある。