国民の信頼回復がテーマだった自民党総裁選。27日の投開票から3日経って、党役員人事や新内閣の顔ぶれがおおよそ出揃った。9月12日に告示され27日の投開票まで15日間に及ぶ長期間の選挙戦を経て、石破茂氏が新総裁に選出された。9人が立候補した選挙戦は派閥の枠が外れた大混戦。裏金問題に端を発した自民党に対する国民の不信感を取り除くために、麻生派を除く派閥が解散の意向を表明。脱派閥が信頼回復の一里塚になるかと思われた。終わってみれば「国民に寄り添う」を一枚看板に総裁選を制した石破氏、党内基盤の脆弱さを補う手段として選んだ「挙党体制」づくりが、まさかの公約違反になった。人事構想を見る限り大義も正義もないキングメーカーへの忖度が優先されている。これは自民党の最も悪き体質だ。「国民に寄り添う」石破政権。掲げる大義は自民党の中にあっては真っ当だが、人事は相変わらず的を外している。意外に短命に終わる政権かもしれない。

投票日(27日)を目前にした26日深夜、産経新聞(Web版)が22時33分に<独自>と銘打ったスクープを配信した。記事の見出しは次のとおり。「自民・麻生副総裁が高市氏支持へ、麻生派議員にも指示 1回目から」。自派所属の河野太郎氏を無視して保守派の高市早苗氏に乗り替えたのだ。麻生氏個人が支持者を変えるのは問題ない。だが、裏金疑惑の中で他派閥の解散を尻目に「派閥の維持」を貫いた麻生氏、1回目から高市氏に投票せよと「麻生派議員に指示」したのだ。これは信頼回復に向け脱派閥を目指した総裁選のテーマに反している。おそらく産経のスクープは麻生氏に近い派閥の誰かがリークしたものだろう。「勝ち馬に乗る」体質が染み付いている自民党議員は、1回目の投票で高市氏がトップになれば、決選投票では間違いなく高市氏に票が流れる。そう読んだ麻生氏の高等戦術だったのだろう。結果が出る前に高市氏への流れを作る。自民党が総裁選の度ごとに水面下で繰り返してきた保身と権力維持の戦術である。

それで勝てれば問題にならなかったのかもしれない。だが結果は高市氏の敗北。産経新聞には記事の最後に次のように書いてある。「ただ、党として派閥解消を掲げる中、麻生氏の派閥単位での指示が同派議員に徹底されるかは不透明だ」。麻生派議員には徹底されたようだ。だから高市氏は1回目の投票でトップになった。だが、その他の派閥に属していた議員は麻生氏の発言を嫌悪した。これが決戦投票で逆転した一つの要因だろう。その麻生氏を石破氏は党の最高顧問で処遇した。一般国民からみれば石破氏は国民に寄り添う前に党内権力者に「寄り添う」選択をしたことになる。麻生氏だけではない。岸田総理は選挙期間中から高市排除の運動を密かに展開していた。菅氏とてなんらかの指示を親しい議員に出していたのだろう。石破政権を支える主流派に犬猿の仲の菅氏と岸田氏、これに自己保身で高市氏に投票を呼びかけた麻生氏が加わった。国民に寄り添わない権力自己中の3人が集まって、どうして「国民に寄り添う」政治ができるのか。石破氏はスタートから勘違いしている。